なぜビートたけしの「毒舌」はウケるのか。浅草演芸ホール会長の松倉久幸氏は「笑いには多少の毒が必要。ビートたけしを始めとする浅草出身のコメディアンには、毒を使って、世の中の真実をあぶりだす力がある」という——。
※本稿は、松倉久幸『起きたことは笑うしかない!』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」のホンネ
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」
きっと日本人なら誰もが一度は聞いたことのあるこのフレーズ、これはビートたけしとビートきよしのコンビ、ツービートが考え、コントで披露したのが始まりです。
今の若い方はツービートを見たことはないでしょう。でもね、その出所が忘れ去られてもなお、彼らが繰り出した言葉が残る。これはすごいことじゃあ、ありませんか。
もちろん良い子の皆さんはマネしちゃいけませんよ(笑)。でもこの言葉を聞いた瞬間、人々の間に可笑しみが生まれ、そして一生忘れられない言葉になるのは、これが本来は「良くない言葉」であり、毒舌であることはわかりながらも、少なからず世の真実が含まれているから、そして人々のホンネが混じっているからではないでしょうか。
そう、これが笑いの正体です。
本当に赤信号で道路を渡るかどうかはさておき、「みんなしているから」と自分で自分を納得させ、本来ならしてはいけないことをこっそりしてしまった経験、きっと誰にでもありますよね。私だってありますよ、そりゃあ。みんなもしているから、ゴミをこっそり道端に捨ててしまう。みんなやっているからこっそり校則を破ってしまう……。