なぜ芸人への業務発注が「口頭」なのか
所属芸人による「闇営業」問題の矛先が、吉本興業に向かっている。
「闇営業」を行って反社会勢力から金銭を受け取ったとして所属先の吉本興業から契約解除などの処分を受けた宮迫博之さん(雨上がり決死隊)と田村亮さん(ロンドンブーツ1号2号)が7月20日、「涙の謝罪会見」を強行した。
これに対して、吉本興業の岡本昭彦社長が7月22日に5時間半にわたる「長時間ダラダラ会見」を行ったことで、多くの人の関心は吉本興業という会社と芸人の「契約関係」や「ギャラ」の実態へと移り、吉本興業のコンプライアンスやコーポレートガバナンスが問われる事態になっている。
多くの視聴者を驚かせたのは、吉本興業と芸人の間には「契約書」が存在せず、業務発注などは口頭で行われているということ。岡本社長は記者会見でこの点を追及されると、「どういう形が模索できるかやっていきたい」と回答した。
しかし、朝日新聞デジタルが7月13日に報じた大崎洋会長のインタビュー(「芸人との契約、今後も「紙より口頭で」吉本興業HD会長」)では、大崎会長はこう答えている。
「結論から言うと変えるつもりはない。吉本に契約書がないと言っているのは、つまり専属実演家契約のこと。それとは別に口頭で結ぶ諾成契約というものがあり、それは民法上も問題がなく成立する」
「所属」なのに、実際には「雇用」していない
つまり、出演依頼を口頭で行い、それを口頭で承諾すれば、契約が成立しているので、その方式を変えるつもりはない、というのだ。
吉本興業の仕事を受ける芸人は個人事業主という扱いで、「吉本興業所属」という言い方がされるにもかかわらず、雇用契約は存在しない。吉本興業自身もホームページで「吉本興業には総勢6000人以上の才能豊かなタレントが所属しており、テレビ、映画、舞台など幅広いメディアに送り出しています」としているが、実際には「雇用」していないのである。
大物タレントのビートたけしさんは、自身のレギュラー番組でこの問題についてこう発言していた。
「闇(営業)って言っているけど、それをやらなきゃ食えないような事務所の契約がなんだ。家族がいて食えないようにしたのは誰なんだと。だったら雇うなよ。最低保障くらいしろよということですよ」
そう怒りをぶつけた。「所属芸人」として使うならば、雇用契約を結び、最低限の賃金を払えというわけだ。雇用契約となればもちろん、国が定める最低賃金は保証される。だが、吉本興業の説明に従えば、芸人と吉本興業の間の関係は「雇っている」わけではない、ということになる。だから「個人事業主」である芸人が直接仕事を取ることも黙認してきた。
問題発覚以降、ことさら「闇営業」という言葉が使われ芸人が悪いというトーンで語られているが、実際は当たり前に行われてきたことなのだろう。