芸人の頂点を目指す若者たちを描いた漫画『べしゃり暮らし』の作者・森田まさのり氏。昨年は自ら漫才コンビを結成して「M-1グランプリ」に出場し、準々決勝に進出した。なぜ漫画家がお笑いにこだわり続けるのか。『べしゃる漫画家』(集英社)の出版を記念し、本人に聞いた——。
撮影=西田 香織
漫画家・森田まさのり氏。代表作に『ろくでなしBLUES』『ROOKIES』『べしゃり暮らし』など

M-1出場のきっかけは“相方”への対抗意識

べしゃる漫画家』を出すことになったきっかけは、友人の写真家・タカハシアキラさんが、M-1に出た僕たち(森田氏と漫画家の長田悠幸氏。コンビ名は「漫画家」)に密着して、写真を撮ってくれていたことです。撮りためた写真を何か形にできないかと編集の人に相談したところ、この本の企画が上がってきました。まさか、自分の人生や漫画について語ることになるとは思ってもいませんでしたが。

M-1に出ることになったのは、単なるノリです。『べしゃり暮らし』はお笑いの漫画ですけど、僕はお笑いの漫画では絶対笑えないと思っているんです。ところが、長田君の『キッド アイ ラック!』という大喜利の漫画を読んだら、面白いんですよ。それが悔しくて、長田君に勝ちたくて、2016年に漫画家を集めての大喜利イベントをはじめました。

その打ち上げの席で、長田君に「今度、一緒にM-1出ようか」って声を掛けたんです。こっちはその場のノリで言ったつもりでしたが、しばらくして、「先生、ネタできました」という連絡が長田君から来まして。

その時、驚いたことが2つあったんです。1つは「本当に出るの?」。もう1つは「え、あなたがネタを書いちゃったの?」。僕は長田君に勝ちたいから大喜利もやっているのに、あなたがネタを考えちゃダメじゃない、と(笑)。やるなら僕がネタを書く、という思いがあったんです。

だから、長田君に「ネタができました」と言われても、「今ちょっと引っ越しで忙しいから、後で落ち着いてから見る」と言って、本当に引っ越しで忙しかったんですけど、その間に自分でもネタを書き始めたんです。長田君が1本書いたんで、対抗して僕は2本書きました。