適用拡大を巡って利権型政治が復活する可能性も

4番目は、財源の問題である。軽減税率を導入すると毎年消費税収が1兆円少なくなる。今回この財源は、たばこ税と所得税の増税分(約3000億円)やインボイス導入により免税事業者の手元に残る「益税」の解消(約2000億円)で賄われるが、インボイス導入による増収は、後述のように4年後以降の話であり、いわば見切り発車によるものとなっている。

また軽減税率による減収は恒久的に続くわけで、今後必要財源を消費税で賄う場合には、その分税率が高くならざるをえないという問題が生じる。

最後に、今後軽減税率の適用拡大を巡って、利権型政治が復活する可能性がある。英国など欧州では、選挙のたびに軽減税率の範囲が拡大してきたといわれている。わが国でも、医師会など軽減税率の適用を政治家に働きかける動きが見受けられたが、今後さまざまな業界団体が軽減税率の導入を目指して政治家に接触する可能性があり、かつて見られたような、業界の利害をくんだ利権政治が復活する可能性がある。

では軽減税率に全くメリットはないのだろうか。政府の立場になって考えると、以下の点がメリットといえよう。

第1に、今後消費税率の引き上げが議論となる際、軽減税率を据え置くことで、消費税率引き上げに対する国民の反対が緩和されるという効果が期待できる。ドイツでは、2007年、メルケル大連立政権の下で消費税の標準税率の16%から19%に引き上げられたが、スムーズに行われた理由の一つに、生活必需品の軽減税率を据え置いたことが指摘されている。

軽減税率は経済のゆがみや反消費税感情を引き起こす

次に、軽減税率制度が始まるのに伴って2023年10月からインボイス(わが国では適格請求書)が導入されるので、消費税制度に対する信頼性が高くなるということである。

インボイスとは、取引に際して発行される書類で、取引事業者の住所氏名、税率ごとに合計した対価の額(税抜きまたは税込み)、適用税率、消費税額が記された書類のことである。課税事業者だけが発行でき、今後はこれを保存していなければ消費税の仕入れ税額控除はできない。現在、免税事業者からの仕入れについても仕入税額控除ができるので、「益税」を発生させていたが、これができなくなり「益税防止」につながるので、消費税制度の信頼を高める効果がある。

さらに大きな効果は、事業者間の取引が、インボイスにより消費税を別記して取引されることになるので、事業者間の価格転嫁が容易になるという点である。

3番目に、レジの普及により、小売り事業の生産性向上が見込まれるという効果が期待できる。わが国の小売業界は、小規模な小売事業者が多く、生産性が諸外国に比べて低いことが指摘されてきたが、レジの導入はその流れを変えていくと予想されている。

消費税は、先進国で最も高齢化が進んでいるわが国の社会保障費を賄うには不可欠な税制である。さらには財政健全化を進めていく必要もあり、今後もさらなる引き上げは不可避といえよう。政治の介入により安易に軽減税率の適用範囲が拡大されるようなことがあれば、消費税の経済に与えるゆがみが拡大したり、国民のアンチ消費税感情に火を付けたりすることになりかねない。大きな役割の期待される消費税への信頼を失うことのないように政策運営していく必要がある。

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