金持ちほど得をするという奇妙なカラクリ

この制度の問題点を指摘すると以下のとおりである。

第1に、軽減税率の導入により、消費税の持つ、広い課税ベースで経済への影響(ゆがみ)を最小限に抑えつつ税収を調達するという機能・長所が失われることである。

OECD(経済協力開発機構)は、先進国が消費税によりいかに効率的に税収を調達しているかということを数値化して公表している。C-Efficiencyと称される指標で、「消費税収をその課税対象となる消費支出額で割ったもの(実際の消費税負担割合)」と「標準税率」とを比べたものである。OECDはこの指標を公表し、各国の消費税率の効率性を高めるように求めてきた。

軽減税率や非課税品目が多く設けられたり、事業者免税点制度の範囲が広かったりするとこの数値は悪化する。わが国の消費税の有効度は、ニュージーランド、ルクセンブルク、エストニア、スイス、イスラエルについで世界で6番目に高いという評価がなされてきた。しかし今回の軽減税率の導入により、経済に与えるゆがみが少ないという消費税の長所を損なうことになる。

2番目は、軽減税率導入の政策意義が不明であるという点だ。消費税は高所得者ほど所得に対する負担割合が低くなるという逆進性を持っている。しかし飲食は、高所得者ほど支出額が大きいので、軽減税率の導入により金額ベースで利益を受けるのは、圧倒的に高所得者である。

高級ステーキ肉を購入する金持ちは軽減税率(8%)、牛丼を食べる低所得者は標準税率(10%)と、本末転倒のことが生じ、金持ち優遇税制という批判さえ受けかねない。逆進性を軽減するための政策としては、低所得者に限定した給付や給付付き税額控除を行う方がより効率的である。

消費者・事業者・税務当局に多大なコストが

第3に、連日話題になっているように、わかりにくい価格表示や複数の仕分け・記帳など、消費者・事業者・税務当局に多大なコストをかけることである。とりわけ標準税率(10%)である外食と、軽減税率(8%)の適用を受ける飲食料品との区分は難しい。

外食の定義は、「その場で飲食させるサービスの提供を行う事業を営む者が、テーブル、椅子その他のその場で飲食させるための設備(飲食設備)を設置した場所で行う食事の提供」とされている。したがってイートインコーナーの設置されたコンビニ・スーパーで飲食料品を買う場合、お店はその都度お客にテークアウト(飲食料品、軽減税率)かイートイン(外食、標準税率)かを確認する必要が出てくる。

さらには、事後的に、事業者の申告が正しいかどうか税務当局が調査する必要が生じる。軽減税率の適用されるテークアウトの比率を実際より多くすれば、納税額は少なくて済むからである。ドイツでは、ファストフード店に、テークアウトとイートインの比率が申告通りかどうか抜き打ちの税務調査が行われている。

周知のように、外食か食料品(軽減税率)かの区分を巡っては欧州諸国でも長年議論が続いており、英国のように温度(温かいものは食料品)で判断したり、カナダのように個数(ドーナツ6個以上の購入は食料品、5個以下は外食)で判断したりと、極めて煩雑なものとなっている。

このような消費者・事業者・税務当局の追加的なコストは、最終的には国民負担となって跳ね返ってくるわけで、事前にそのことがわかっていたにもかかわらず軽減税率制度を導入したわが国の政策決定には大いに問題ありといえよう。