10月1日からの消費増税に合わせて導入される「軽減税率」。中央大学法科大学院の森信茂樹特任教授は、「平成以降最悪の経済政策だ。政治の介入により安易に軽減税率の適用範囲が拡大されるようなことがあれば、経済のゆがみや、国民のアンチ消費税の感情を増幅しかねない」という——。
軽減税率導入の裏には政治的事情がある
2019年10月1日からの消費税率10%への引き上げを目前に、連日消費者や小売店の「混乱」ぶりが報道されている。
その原因は、消費税率の引き上げというより、「酒類・外食を除く飲食料品と新聞購読料(週2回以上発行)」に対して導入される軽減税率である。さらに、増税に伴う経済への悪影響の緩和とキャッシュレス推進の一石二鳥を狙って導入されるポイント還元策が、混乱に拍車をかけている。
筆者は軽減税率制度は、平成(適用されるのは令和だが)最悪の経済政策だとこれまで批判してきた。現在の混乱ぶりを見るにつけ、改めて軽減税率の導入という政府の政策の意義や問題点、数少ないメリットなどを検証してみたい。
導入決定時の経緯を振り返ると、社会保障・税一体改革、三党合意を経て自民党に再び政権交代して3年目の、平成28年度税制改正にさかのぼる。自民党と公明党の幹事長レベルでの話し合いが進まず、最終的に安倍総理が、当時の自民党税制調査会長であった野田毅氏を更迭して、10%引き上げ時の導入を決めたものである。当時安倍政権最大の課題であった安保法制協力への「お礼」として、軽減税率を主張してきた公明党の主張を取り入れたものといわれている。
このような極めて政治色の強い政策決定のため、軽減税率の導入の是非、代替案との比較など、国民的な議論はほとんど行われていない。その証拠に、新聞に軽減税率が適用されるということをいまだ多くの国民は知らない。