政府が主導してきた「マイナンバーカード」の普及が進んでない。現状の普及率は2割程度で、このままでは壮大なムダで終わる恐れがある。どうすればいいのか。東京財団政策研究所研究主幹の森信茂樹氏は、「アベノミクスの影である所得格差の是正に活用できるはずだ」という——。
デジタル改革関係閣僚会議で発言する菅義偉首相(右から3人目)。同2人目は平井卓也デジタル改革担当相=2020年9月23日午前、首相官邸
写真=時事通信フォト
デジタル改革関係閣僚会議で発言する菅義偉首相(右から3人目)。同2人目は平井卓也デジタル改革担当相=2020年9月23日午前、首相官邸

アベノミクスは「光」と「影」がはっきりする政策だった

菅政権が誕生し、スガノミクスの具体的な内容がどのようなものになるのか、注目を浴びている。筆者は、菅政権が基本的にアベノミクスを承継する以上、アベノミクスの長所を伸ばし、影の部分を是正していくことが重要だと考えている。

アベノミクスは「光」と「影」がはっきりする政策だった。

政権発足当時の「3本の矢」は、わが国の経済・社会を取り巻く景色を大きく変えた。円安・株高が生じ、企業業績は回復、雇用の大幅な改善などで一定の成果を残した。しかし経済成長率の底上げを図る政策が機能せず、国民の実質賃金は停滞し、中間層の高所得層と低所得層への二極分化が進み、全体としての所得・資産格差も進んだ。

つまりアベノミクスの影の部分というのは、経済成長の果実の配分を市場に任せるというトリクルダウン(成長と分配の好循環、第1次分配)に期待するあまり、税制や社会保障制度を活用する所得再分配政策には冷淡であったため、国民が安心して消費できるような経済環境をつくることはできなかったということだ。

そこで菅新政権の課題は、所得の再分配をどう進めて国民生活の安心感を醸成していくかということになる。そしてそれを有効に進めるツールとして、マイナンバー(社会保障・税番号)の活用がある。