東京・南青山のマンションで、死後約1週間の男性の遺体が見つかった。男性は商社に就職後、大手旅行会社に転職し、50歳で独立。旅行業を営んでいた。常連客は「気配りができ、安心感のある人だった」という。なぜ男性は孤立死したのか。読売新聞社会部の著書『孤絶 家族内事件』(中央公論新社)より紹介する——。(第4回)

※本稿は、読売新聞社会部『孤絶 家族内事件』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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布団には遺体と重なる形で赤黒い染み

2017年の9月に入って間もない日の昼前。高級ブティックやレストランなどが立ち並ぶ東京・南青山の一角にある築40年超のマンションの一室に警察官が入ると、事務机と本棚の奥に敷かれた布団にうつぶせに横たわる男性の姿があった。

ポストに郵便物がたまっていることに気づいたマンションの管理人が、所在を確認しようと部屋の前まで行き、異臭を感じたという。

厳しい残暑が続く中、室内のエアコンのスイッチは切られたまま、再開発地区で建設が進むガラス張りの高層ビルが見える窓からは、強い日差しが照りつけていた。

警察が調べた結果、男性は約1週間前に病死したとみられることがわかった。布団には、男性の遺体と重なる形で赤黒い染みが付着していた。遺体の確認のために警察署に駆けつけた男性の3歳上の兄(71)は、警察官から「遺体の傷みが進んでいて、死因も身元もはっきりしない」と告げられた。身元の特定に必要なDNA鑑定のため、兄はその場で唾液を採取された。事件性はないと判断されたが、熱中症なのか持病なのか、結局、死因ははっきりしなかった。