建築業から、「ノリ」でキャバクラ経営者に

これらの取材を行ったのは、2019年7月のことだ。私はこの日、仲村と2人で“取材”という名目のお茶をしていた。

仲村の話し方は、おっとりしている。見た目は爽やかな好青年。夜の世界で働いている人が持っている独特の厳しさを感じることもない。むしろ、仲村は優しく、考え方に柔軟性がある。しっかり、リーダーシップも持ち合わせている。だから、中箱でも女の子の在籍が多かったり、客引きに月50万円を稼いでいたりする人がいるのだろう。

取材に応じる仲村氏(仮名)
撮影=上原 由佳子
取材に応じる仲村氏(仮名)

仲村が夜の世界に入ったのは、建築業をしていた時に腰を痛めたからだった。小さなスナックの面接を受けてみたが、落とされてしまった。23歳の頃、「どうせなら一番大きいところに行こうかな」と思い、沖縄一の歓楽街・松山で大々的に展開していた大手キャバクラグループで働きだす。

そして、25歳になったときに転機が訪れる。友人から、他のキャバクラを経営していた男性を紹介されたのだ。仲村は大手グループを辞めてから、すぐに今の中箱キャバクラ店の経営者になった。

当時のことは「どっちが誘ったのか謎だけど、ノリかな」と振り返る。ノリでなんとかしてしまったのは、仲村の実力だろう。

「しょせん夜の仕事」と淡々とするわりに……

しかし、キャバクラを経営することに関しては「確固たる何かがない。やってやろうみたいなのはない。俺はね」と言い切っている。野望みたいなものはないのか聞いてみると、「うん、ない」と一蹴されてしまった。

そして、こうも言った。「生活できて、周りと仲良くできたらいいかなくらいにしか思ってないかな。ゆーてもキャバクラだし、田舎のいちキャバクラだし、そんなんで成り上がろうなんて無理な話だよ。普通の同世代の人よりちょっといい生活してるくらい。その感覚」

昼働いている人に対して、どう思っているのか聞くと「やっぱり昼働いてる人が偉いんじゃない? こっちはしょせん、夜だし」。あくまで淡々としている。

そんな仲村だが、女性キャストへの気配りは忘れない。

キャストから何を改善してほしいか聞き、反映させている。例えば、セクハラをするお客への対処法を決めたこともそうだ。セクハラを受けて助けてほしい時は三角、何もない時は四角というように、おしぼりのたたみ方でボーイに知らせることができる。つまり、キャストがお客から文句を言われずに、自然に席を抜けるタイミングを作り出す。

こうした対策を話し合う場にはボーイも参加するのだが、キャストとの立場の違いから生じるわだかまりが残らないように工夫されている。というのも、お互い何を直してほしいかなどを話すため、キャストもボーイもナーバスになりやすい。そのため、ミーティングの後には、参加費無料の懇親会が行われている。こうした小さな工夫がキャストの働きやすさをつくっているのだろう。

地元企業を買収しようとしたワケ

ところで仲村自身は、自分の将来のことをどう考えているのだろうか。仲村は「一生は無理」と言い切った。

「常に供給していかないといけないわけで、それが延々とできるとは思ってない。自分の年齢に比例して、夜働く女の子を探すのって難しくなっていくと思うわけ。今は、まだ30歳だから女の子の知り合いもいるけど、40歳、50歳になってからは、厳しいよ」

確かに、常に女性を商品化する職業で、キャバクラで働けるくらいの若い女性の知人が減っていくのは、致命的なような気もする。仲村は「そこで、自分を慕ってくれている後輩がどれだけ働いてくれる人を集められるかって話だと思う」と後輩への期待も口にした。

キャバクラにまつわる話もだいぶ聞かせてもらった頃合いで、仲村は突然思い出したように「最近、地元企業の買収、失敗したんだよね」と言った。

なぜ、昼間の企業を買収する必要があるのか聞いてみると、飄々(ひょうひょう)とした仲村から意外な言葉が返ってきた。「ん? 女の子たちも辞めたら働ける場所ないといけないさ?」。つまり、セカンドキャリアを作る場を仲村が提供しようとしていたのだ。

「事務とかなら、頑張ってくれた子にさせられるかなと思って。それもあって最近は、昼間動くことが増えたかもしれない」

女性キャストの待遇が良く、セカンドキャリアまで考えており、しかも経営が安定しているキャバクラは珍しい。仲村の女性キャストへの思いやりが実現する日は、いつになるだろうか。

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