避妊に失敗した際に妊娠率を下げる飲み薬「アフターピル」は、アメリカやフランスなど19カ国では薬局で簡単に買える。だが日本では、医師の処方箋が必要であるうえ、日本産婦人科医会は市販化に反対している。内科医の山本佳奈氏は「日本だけが世界の流れに逆行している」と指摘する――。

世界に逆行する「緊急避妊薬」の議論

男性と女性の間の性的な行為である性行為の本質は、子孫を残すことだ。つまり、性行為が子どもを作るための行為である以上、妊娠を望まないのであれば避妊するしかない。避妊に失敗したら、妊娠率を限りなくゼロに近くしてくれる緊急避妊薬を早急に内服し、それでも妊娠してしまったら、子どもを作るための行為をしたのだから仕方がない。そう言い切ってしまう私は、冷たいのだろうか。

昨今、緊急避妊薬をめぐる議論が盛んになっている。だが、日本における議論は世界や時代の流れから逆行していると言わざるを得ない。

先進国を含む世界19カ国では緊急避妊薬はすでに市販化されており、76カ国では処方箋がなくても薬剤師を通じて購入することができる。だが、日本では、医師の処方箋なしに緊急避妊薬を手に入れることはできないのが現状だ(International Consortium for Emergency Contraception「EC Status and Availability Countries with non-prescription access to EC」より)。

米国には自販機で販売している大学がある

そもそも、「緊急避妊薬」とはその名の通り、避妊に失敗した際、緊急的に内服する避妊薬のことだ。具体的には、性交渉後3日以内、ないしは5日以内に内服しないと効果が期待できない薬である。妊娠を望んでいないにもかかわらず避妊に失敗してしまったときや、そもそも避妊をしていなかった際に、緊急的な手段として翌朝に内服されることが多いことから、モーニングアフターピルやアフターピルとも呼ばれている。

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なんと、米国では、自販機で緊急避妊薬や避妊具などの販売を開始し始めた大学がある。大学のキャンパスにある健康センターで緊急避妊薬や妊娠検査薬などを購入することができるものの、夜遅くの時間や週末には開いておらず、手に入れることができない。そこでキャンパス内に置かれたのが、緊急避妊薬や避妊具を購入できる自販機だ。

緊急避妊薬は30ドルほどで購入可能で、薬剤師と対面するよりも心理的な面でも自販機の方が買い求めやすく、学生の間では「性行為を奨励している」などと反対する声よりも、「いざというときに役に立つ」というポジティブな意見の方が多いという。

このように世界では緊急避妊薬の市販化が進む一方で、日本では女性が「緊急」に内服できるような環境にしようとは到底思えない議論が進んでいる。