近年、自分に直接関係のないことにも「許せない」と過敏に反応する人々が増えている。不寛容な人が増え続けると、日本はどうなるのか。エコノミストの門倉貴史さんが経済の観点から考え、自分の主義・信条と合わない人たちとの共存方法を探った。
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当事者・関係者でもないのに徹底批判する人が増加

週刊誌のスクープで不倫が発覚したタレントが世間から大バッシングを浴びるなど、最近の日本社会では人々の寛容さが失われて、それとは逆に不寛容さが目立つようになってきた。

自分の主義・信条と合わない行動を取る他人を叩いたり批判したり、さらには人格否定までする不寛容な人が増えてくると、日本経済にも無視できないマイナスの影響がおよぶ可能性がある。

まず不倫の問題から考えてみよう。不倫は倫理や道徳からはずれた行為なので、不倫が発覚したタレントが配偶者や子どもなど関係者に謝罪するのは当然のことだろう。しかし、なんの迷惑もかかっていないテレビの視聴者や雑誌の読者が不倫していたタレントのSNSに「許せない!」などと書き込んで、辛辣に批判するのはちょっと行き過ぎのような気もする。

実は、モラルを抜きにして純粋に経済的な視点でとらえると、ラブホテルやレストラン、ギフト市場など男女の不倫が増えることで直接・間接に恩恵に浴するビジネスがたくさん存在する。

筆者の推計によると、日本の不倫の市場規模は年間約3兆5489億円に上る。さらに総務省の『産業連関業』を使って、商業・サービス部門を中心に約3兆5489億円の最終需要が新規に発生した場合に、二次的な経済波及効果(不倫デートに伴う消費支出の拡大によって、飲食店・娯楽施設・ラブホテルなどで働く人たちの雇用・所得環境が改善し、その人たちが消費を増やし、さらに生産の拡大が促される効果)がどれくらい発生するかを計算すると、約1兆9545億円となった。

最初に発生した最終需要(=約3兆5489億円)と二次的な経済波及効果(=約1兆9545億円)を合わせると、不倫によって動くお金の総額は年間約5兆5034億円にも達する。日本のGDP(国内総生産)が約500兆円なので、その1%強を不倫ビジネスが占めている計算だ。逆にいえば、社会全体が不寛容になって不倫・浮気を徹底的に排除することになれば、日本のGDPが約5兆5034億円も縮小してしまうということだ。

拡大しつつある日本の国内市場に水を差すことも

次に、ニオイや香りについてはどうだろうか。「職場で先輩女性のつけている香水の匂いがきつくてガマンできない」など、ニオイや香りについても不寛容な人が増えているようだ。実際、「プレジデント ウーマン プレミア」(2019年6/28号)の管理職に関するアンケート調査の結果をみると、「許せないマナー」の第1位は「香水の香りが強い」だった。