日本人は、国民性として、もともと香りやニオイに敏感といわれるが、最近はその傾向に拍車がかかっており、ニオイや香りを徹底して拒絶する人も少なくない。
ニオイ・香りについての嗜好は人それぞれなので、香水をつける人が周囲に配慮することはもちろん必要だが、不寛容の度合いが増して、やみくもにニオイ・香りを排除しようという機運が高まると、日本のフレグランス市場の拡大に水を差すことにもなりかねない。ちなみに、市場調査会社の矢野経済研究所の推計によると、日本のフレグランス市場は年々拡大しており、2017年度で303億円(前年比1.2%増)となっている。
また、ニオイ・香りの排除は、外国人観光客の呼び込みにもマイナスの影響をおよぼす。香りの文化は欧州をはじめ海外で定着している。インバウンド消費が拡大する中、海外からの観光客が、日本で香りの文化が育たず、「日本では好みのフレグランスを購入できない」、「香水をつけていると多くの人からバッシングを浴びる」ということになれば、日本がインバウンド需要を取り込むチャンスを失うことにもなりかねない。
共存社会に必要なのは、客観的視点に立つこと
喫煙者に対するバッシングの問題についてはどうだろうか。最近では、受動喫煙による健康被害が社会問題として大きく取り上げられるようになっており、飲食店での全面禁煙の動きも広がりつつある。
しかし、喫煙者が存在することで、タバコ税による税収が年間約2兆円も中央政府と地方政府の懐に入っている。社会の不寛容の度合いが増して、喫煙者を徹底的に排除してしまうと、そのぶん、政府の税収が減少することになり、最悪の場合、不足分の財源を確保するために将来的に増税が実施される可能性もある。
これまで見てきたとおり、自分の価値観とは異なる存在をむやみに排除してしまうと、それが最終的に景気の悪化や増税といった形で自分自身に不利益をもたらす可能性があることには十分な注意が必要だろう。
では、今の不寛容社会を寛容的な共存社会に変えるにはどうすればいいのか。やはり客観的視点に立った情報収集を通じて個々人の意識を変革していくことが必要だろう。人間は無意識のうちに、自分がそうあってほしいと願う情報、自分の信念に合致する情報を選び、自分が否定したい情報や自分にとって都合の悪い情報を排除する傾向がある。このような心理的な傾向は、一般に「確証バイアス」と呼ばれる。自分の信念に都合のいい情報ばかり集めて、都合の悪い情報は切り捨てるという行為が繰り返されていくと、誤った認識が歪んだ情報で補強されることを通じて、ますます強固なものになっていき、最後はその人の頭の中で、歪んだ情報が事実として受け止められ、自分の主義・信条に合わない価値観に対しては徹底して不寛容になってしまう。