Appleで「世界最高齢のアプリ開発者」と紹介され、人生が一変
「来年のお誕生日がくると、90歳になるんですね。ますます仕事が増えちゃう」
そう笑うのは、ICTエバンジェリストの若宮正子さん(89歳)。銀行勤めをしながら定年前にパソコンを購入、退職後にその面白さに目覚めると、70歳過ぎて表計算ソフト・エクセルを使って色鮮やかな図案を描く「エクセルアート」を考案。81歳の時にはスマートフォン向けアプリを開発し、Worldwide Developers Conference(WWDC)に招待され、AppleのCEO、ティム・クック氏から「世界最高齢のアプリ開発者」と紹介されると、メディアから引っ張りだこになり、日本政府の「人生100年時代構想会議」の有識者議員にもなった。
1935年生まれ。89歳にして世界中が注目する若宮さんが語る「時代の変化を生き抜く力」とは?
「こういうことになるとは思ってもいなかった。今、講演に呼ばれることが多いんですが、人生100年時代をどうやって生きたらいいかわからないから、教えてくれとおっしゃるんです。私だってまだ100年生きてない、90年も生きていないんですけどね(笑)」
戦中生まれ、「お上の言うこと」は信用できないと学んだ
「世界最高齢のプログラマー」若宮さんの最初の一歩は、58歳の頃。パソコンを買ったのがきっかけだが、ウィンドウズ95の登場前、当時のパソコンはまだ「ガラクタっぽいもの」で、そんなガラクタが自分の人生後半をこんなに変えるとは思ってもみなかったと振り返る。
「当時は今でいうSNSのようなもので、電話回線を使って文字だけを送るパソコン通信というのがあったんです。私はものすごく好奇心が強いから、それにロマンを感じちゃって。家にいて北海道の人とも沖縄の人ともお友達になれるって、素晴らしいと思ったんです。40代から海外旅行を趣味としていましたが、それにも似た感覚ですね」
「世界最高齢のアプリ開発者・プログラマー」と聞くと、さぞ昔からメカに強い人だったのだと思うだろう。しかし、1935年生まれの若宮さんが子どもの頃は当然、機械などは身近になかった。それどころか、第2次世界大戦で小学校は機能しておらず、ほとんど授業も行われず、勉強する時代ではなかった。
「戦争が始まったら軍国主義になって、敗戦後はアメリカの占領軍の時代になって、日本が独立したら今度は旧体制の教育に戻り、次は経団連などが主導する時代に入っていってという具合ですから、いちいちそのときの体制に付き合っていられないですよ」