渋谷で働きはじめ、2年半が過ぎた。
大和証券渋谷支店の資産コンサルタント部次長・島川麻美さん(33)は、「まさか札幌を離れるなんて思ってもいなかった」と話す。成績優秀な営業マンを半期ごとに表彰する社長賞を8度も受賞。この秋から7人の部下を持つ。
「お客様の意向を最大限に尊重した商品運用の提案を心がけているんです。お客様の気持ちを理解し、考えに沿った運用で成果があがれば、より満足していただけるわけですから」
札幌出身の島川さんは、地元の短大を卒業後、一般職として大和証券札幌支店に入社。せっかく証券会社で働くのだから、車でアクティブに外回りに出たいと意気込み、免許証もとった。けれども、実際は制服姿での窓口業務。理想と現実のギャップを埋めようと社内試験を受けたのは、4年目のこと。
念願の営業担当になり、札幌近郊で車を走らせ、パンフレット片手に飛び込みで顧客を開拓した。断られることも多かった。それでも「お客様とお話するのが純粋に楽しかった」と振り返る。ときには、案内した商品の値が下がり、叱られることもあったが、取引を打ち切る顧客は少なかった。
「取引を継続していただくときの決め手になるのは、お客様との繋がり」と島川さんは語り、こう続けた。
「お客様の興味や関心、どんなことを考えているかがわからなければ、大切なお金を扱わせていただけるわけがありません。私は、商品の案内よりも、趣味や家族の話を重視しています。取引に関係ない会話に時間を費やすのは、ムダだという人もいるかもしれません。でも、それが、信頼関係を築く第一歩になると思うんです」
2006年秋。東京本社の教育研修部の女性部長が、札幌支店を訪れた。彼女は、「総合職の試験を受けてみたら」と軽い口調で島川さんに勧めた。島川さんにとっては思いもしない言葉だった。当時、エリア総合職として働いていた島川さんに転居をともなう異動はなかった。もし、総合職になれば、どこに転勤になるかわからない。