競合他社と長年の付き合いがあり、99%決まっている案件を奪い取る――。超逆風下の戦いで1%の可能性を切り開いたのが、吉田富美香(42)だ。
それは2年半前のこと。オラクルでは以前からオムロングループとの取引を狙っていたが、オムロンは30年間、全面的に競合他社のシステムを利用していて、新たに導入する統合業務ソフトも、ライバル会社の製品でほぼ決まりかけていた。しかし、上層部の直接交渉で、オラクルも営業の機会だけはもらえることになった。そのプロジェクト責任者としてオムロン専任営業担当に抜擢されたのが、吉田だった。
もっとも社内には、あきらめムードが漂っていた。機会をもらえたと言っても形だけで、長年の取引関係をひっくり返すことは不可能と思われていたのだ。吉田自身、本格的な営業経験はなく、仕事にかける情熱を買われての抜擢だ。戸惑いもあったが、「やらずに失敗するよりも、やってダメなほうが学ぶことも多い」と前向きに考えた。
オムロンは京都に本社を構える老舗企業。吉田が最初に面食らったのは、京都ならではの慎ましやかな物言いの文化だ。ストレートに話す名古屋人の吉田には、余計に話が見えにくい。「柔らかな表現をする方が多いので、何を求めているのか行間から読み取るんです。クレームでも遠回しにおっしゃる方もいますから、真意をきちんと見極めないと勘違いしてしまいます」。
わかりにくいからこそ、聞き役に徹し、話の意図を理解する。話の端々に潜むニーズを丹念に拾っていくうちに、相手の明確な要求がなくとも提案できるようになった。信頼を得るため「質問されたら超特急で調査して回答する」努力も惜しまなかった。
先方とのやり取りでは、大事なことはメールでなく電話か対面にこだわった。「お話しする機会を少しでも増やしたくて、わざと忘れ物をして取りにうかがったこともありました」と笑う。