「既読」表示のせいでストレスがたまる

もっともLINEも、いいことずくめではありません。これまで、第三者にアカウントが「のっとられる」といった事件が起きたほか、クローズドなコミュニティならではの、いくつかの社会問題が指摘されてきました。たとえば、「LINEいじめ」や「既読スルー」です。

後者は2014年に流行語として広まり、女子中高生の間では「KS」の略称でも呼ばれました。「既読」は、LINEでメッセージを送信すると、相手に読まれた時点で送信者の画面に表示される「既読」の文字のこと。

他にも似た機能を持つアプリはありますが、LINEはとくに「チャット」感覚なので、送ったほうは「既読」表示後にしばらく返信が来ないと、ついイライラ。送られたほうも、「メッセージを読むと『既読』がつくから、早くレス(レスポンス)しなきゃ」と焦ります。

LINE上のグループでも同じ。みんながメッセージをやり取りするなかで、自分だけが「既読」と表示されながらレスしないままだと、どうもバツが悪い。でも常に「即レス(即時的にレスポンスする)」しようとして、メッセージの通知音をオンにしておくと、しょっちゅう「ピンポーン」などとスマホから鳴り響き、そのたびにドキッとして心臓に悪い。次第に「面倒」「ストレス」と感じる男女が増え、一時は「LINE疲れ」も流行語になりました。

「今さら止められない」状況になっている

そこで若者たちは、「裏ワザ」を編み出したのです。私も女子高生たちから、「知ってます?『機内モード』にしたまま読むと、その間は既読がつかないんですよ」や「送られたメッセージ画面を『長押し』したまま内容を読むと、既読がつかないみたい」など、あの手この手の裏ワザを聞かされました。ただし彼女たちは、裏でこうも嘆いていました。

「読む間、ずっと画面を押し続けてなきゃいけないから、腱鞘炎になりそう」
「『そこまでKSが怖いんだ、私』と思うと、気分が萎えちゃうときもあるんです」

私のようにLINEを利用しない人は、往々にして「だったら、止めればいいのでは?」と考えます。でも、若者たちは言うのです。

「今さら止められない」

止めてしまったら、グループの皆が当たり前のように得ている情報が、自分にだけ入ってこなくなる。これは若者に限りません。今や仕事上の飲み会や子どもの習い事、マンションの自治会連絡も、LINE経由でやり取りするケースが増えています。「当たり前」と思って享受してきたその情報を突然、自分だけが得られなくなれば、かなり渇望感を感じるでしょう。朝起きたらなぜか、自分の家だけ蛇口から水が出なくなっていた、というのと同じ。便利に慣れると、人はなかなか途中で止められないのです。