2011年に登場したLINEは、わずか1年で日本人の約17%が使う「メジャーな存在」になった。マーケティングライターの牛窪恵氏は「クローズドな環境を作り、『仲間はずれになりたくない』という心理を引き出した。これから先、プラットフォームとして提供するサービスを増やすほど、『止められない』人は増えていくだろう」と分析する――。

※本稿は、田中道昭・牛窪恵『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? アマゾンに勝つ! 日本企業のすごいマーケティング』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

写真=時事通信フォト
2018年6月28日、LINE株式会社が開催した事業戦略発表会「LINE CONFERENCE 2018」の会場前に設置されたロゴ(千葉県浦安市のアンフィシアター)

発売から1年ちょっとで「キャズム越え」

LINEは、いつ「キャズム」を越え、メジャーな存在、いわゆるイノベーションとして認知され始めたのでしょうか?

ロジャースとムーアの定義に基づくと、キャズムはアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に存在する大きな溝です。キャズムの手前の二者、すなわちイノベーターとアーリーアダプターの合計は市場全体の「16%」ですから、全体の16%超、17%に普及した段階で、「キャズムを越えた」と見ることができます。

2019年6月時点で、日本の総人口は約1億2623万人。その17%は、約2150万人です。つまり利用者数がこの人数に達した時点で、LINEは「キャズム越え」を果たしたことになる。

そこで、LINEの過去のプレスリリース(企業や官庁等が、報道関係者に向けて発表する資料)を見てみると、発売から約1年後(12年7月)に発表したリリースに、「国内ユーザーが2000万人を突破(2100万人)」とあります。

ということは、LINEは発売から1年強が経ったころ、すでに「キャズム越え」を果たし、メジャーへの道を着実に歩んでいたわけです。まさに驚異的なスピードですよね。でも逆にいえば、人々が初めは「何コレ?」と疑心暗鬼になりがちな、画期的な新サービスであるにもかかわらず、なぜLINEはこんなにも速く普及したのでしょうか?

「クローズド」な環境を作り上げた

最大の秘密は、「クローズド」なコミュニケーションアプリというLINEの特性と、日本人特有の「みんなと同じだと安心」という行動心理にあると私は思います。

というのも、人は誰にでも開かれた大きな都市にいるよりは、閉鎖的な小さな村にいるほうが「みんなに乗り遅れまい」「仲間はずれになりたくない」と考えやすいもの。「みんなが○○している」という状況も、クローズドな環境のほうが感知しやすいでしょう。

ということは、最初から大きなオープン市場を一気に狙うより、大きな市場の中にクローズドな小規模グループをいくつも作り、その中で同時多発的に「みんなが○○している」「仲間はずれになりたくない」と感じさせてキャズムを越えさせるほうが、早く普及する可能性があると言えます。

LINEが日本でサービスを開始したのは、2011年6月。この少し前、いわゆるSNSの世界では、すでに「ミクシィ」や「ツイッター」「フェイスブック」が、それぞれ大規模なユーザーを獲得していました。

具体的には11年3月の時点で、ミクシィの利用者が約1320万人、ツイッターが約1760万人、フェイスブックが約766万人。これらトップ3の特徴は、「知らない人」とも、オープンにSNS上で知り合えること。だからこそ急速にユーザーを増やすことができたと見られていました。