※本稿は、田中道昭・牛窪恵『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? アマゾンに勝つ! 日本企業のすごいマーケティング』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
発売から1年ちょっとで「キャズム越え」
LINEは、いつ「キャズム」を越え、メジャーな存在、いわゆるイノベーションとして認知され始めたのでしょうか?
ロジャースとムーアの定義に基づくと、キャズムはアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に存在する大きな溝です。キャズムの手前の二者、すなわちイノベーターとアーリーアダプターの合計は市場全体の「16%」ですから、全体の16%超、17%に普及した段階で、「キャズムを越えた」と見ることができます。
2019年6月時点で、日本の総人口は約1億2623万人。その17%は、約2150万人です。つまり利用者数がこの人数に達した時点で、LINEは「キャズム越え」を果たしたことになる。
そこで、LINEの過去のプレスリリース(企業や官庁等が、報道関係者に向けて発表する資料)を見てみると、発売から約1年後(12年7月)に発表したリリースに、「国内ユーザーが2000万人を突破(2100万人)」とあります。
ということは、LINEは発売から1年強が経ったころ、すでに「キャズム越え」を果たし、メジャーへの道を着実に歩んでいたわけです。まさに驚異的なスピードですよね。でも逆にいえば、人々が初めは「何コレ?」と疑心暗鬼になりがちな、画期的な新サービスであるにもかかわらず、なぜLINEはこんなにも速く普及したのでしょうか?
「クローズド」な環境を作り上げた
最大の秘密は、「クローズド」なコミュニケーションアプリというLINEの特性と、日本人特有の「みんなと同じだと安心」という行動心理にあると私は思います。
というのも、人は誰にでも開かれた大きな都市にいるよりは、閉鎖的な小さな村にいるほうが「みんなに乗り遅れまい」「仲間はずれになりたくない」と考えやすいもの。「みんなが○○している」という状況も、クローズドな環境のほうが感知しやすいでしょう。
ということは、最初から大きなオープン市場を一気に狙うより、大きな市場の中にクローズドな小規模グループをいくつも作り、その中で同時多発的に「みんなが○○している」「仲間はずれになりたくない」と感じさせてキャズムを越えさせるほうが、早く普及する可能性があると言えます。
LINEが日本でサービスを開始したのは、2011年6月。この少し前、いわゆるSNSの世界では、すでに「ミクシィ」や「ツイッター」「フェイスブック」が、それぞれ大規模なユーザーを獲得していました。
具体的には11年3月の時点で、ミクシィの利用者が約1320万人、ツイッターが約1760万人、フェイスブックが約766万人。これらトップ3の特徴は、「知らない人」とも、オープンにSNS上で知り合えること。だからこそ急速にユーザーを増やすことができたと見られていました。