米中貿易戦争の影響で韓国経済が悪化している
にもかかわらず、なぜ韓国政府は日本の措置を「明白な経済報復」だと決めつけ、露骨に日本政府を敵視する姿勢を取るのか。
考えられるのは、足下の韓国経済が急速に悪化していることだろう。米中貿易戦争の余波で世界経済に減速懸念が強まる中で、貿易依存度(国内総生産GDPに占める輸出入の割合)が80%を超す韓国経済の先行きに暗雲が広がっている。日本の貿易依存度は30%程度なので、その大きさが分かる。
しかも、韓国の輸出先トップは中国で、全体の4分の1を占めている。米中貿易戦争の激化が、韓国経済を直撃することになりかねないのだ。
8月1日に米国のドナルド・トランプ大統領が中国からの輸入品3000億ドルぶんに、9月1日から関税10%を上乗せするとツイッターで発信した途端、韓国の通貨ウォンは一気に急落した。緩やかなウォン安ならば輸出企業にプラスに働くが、急落は通貨危機に直結しかねない。金融市場では「アジア通貨危機、リーマンショックに続く、3度目の通貨危機が起きそうだ」という見方まで広がっている。
景気悪化を「日本のせい」にしたい文大統領
実は、韓国経済の足下が崩れ始めているのだ。
しかも、韓国経済は財閥企業に大きく依存している特徴がある。韓国GDPの2割はサムスン電子と現代自動車が稼ぎ出していると言われるほどだ。対中輸出の激減で輸出産業の業績が悪化すれば、そのしわ寄せは若者に行く。財閥系企業に入れるかどうかで人生の成否が決まるとも言われるほど財閥志向の強い韓国の若者たちが、新卒採用の道を閉ざされれば、大きな社会不安が起きかねない。そうなれば、当然、不満は文政権に向く。
2017年5月に就任した文大統領はちょうど折り返し点に差し掛かっている。韓国大統領の任期は1期5年で再選が禁止されている。民主化以降、これまでのほとんどの大統領が任期後半にレイムダック化し、激しい政権批判にさらされたのは周知の通りだ。
とくに、経済の悪化は支持率の低下に直結する。韓国経済の悪化は自らの経済運営の失敗のせいではない、ということを強調しなければ、批判の矛先は大統領に向く。だからこそ、ことさらに景気悪化の原因を「日本のせい」にしなければならないのだろう。
8月6日、ソウルの中心部の通りに「BOYCOTT JAPAN」と書かれた旗が掲げられた。日本には行きません、日本製品は買いません、というキャンペーンだ。