領土交渉を抜きにした平和条約交渉はあり得ない

またプーチン大統領は、昨年9月安倍晋三首相、中国の習近平国家主席その他の国家元首も参加したウラジオストクでの「東方経済フォーラム」で、「一切の条件なしで(=領土問題と関係なく)」今年末までに平和条約を締結しよう、と安倍首相に提案した。このプーチン提案に対して首相は苦笑で応じただけだったが、政府は領土交渉を抜きにした平和条約交渉は有り得ないとのしっかりとした反論を出さず、逆に「プーチン大統領の平和条約への強い意欲の表れ」と驚くべき評価をした。もちろん侮辱されているのを取り繕う発言である。

このプーチン発言を筆者は次のように解釈する。2000年7月末に野中広務自民党幹事長(当時)が「領土問題と平和条約問題は切り離しても良い」という意味の発言をして、ロシアでも注目された。プーチンは日本側がそこまで譲歩するつもりがあるのか、ジャブを入れたのだろう。日露領土交渉に深く関わったロシアのクナーゼ元外務次官も、「では平和条約交渉で何を話すのか。ソ連時代でもこれほど侮辱的な対日対応はなかった」と述べたほどだ。

ペスコフ大統領報道官も今年3月に「日本と交渉しているのは、島を引き渡すか否かではなく(それとは関係なく)平和条約締結に関する合意だ。この交渉はたいへん複雑で何年もかかる可能性がある」とさえ述べた。難しくないことをわざと難しく見せ、プーチンの任期中に解決するつもりはなく、それこそ「いつまでも平和条約交渉をしよう」との意だが、もちろんプーチン自身の考えだ。

歴史認識も正さず友好や交流強化を訴える日本

2016年11月にロシアのマトビエンコ上院議長が訪日した時、彼女は「四島のロシアの主権に疑いはなく、国際文書にも定められている。ロシアの立場は不変で、主権は放棄しない」と、やはりプーチンの言葉を複唱し、歴史を歪曲して勝手放題を述べた。

昨年7月に伊達忠一参議院議長がマトビエンコ氏に招かれて訪露し、彼女の司会の下でわが国の参議院議長としては初めて上院での演説の機会を得た。ロシア側の間違った歴史認識を正す絶好の機会であったが、ただ両国の友好関係や交流の強化について述べただけであった。

最近、プーチン大統領は日米安保条約からの日本の脱退が平和条約締結の条件だとか、その日米安保条約に関しても「56年宣言が署名された時は存在しなかったが、今は存在している」といった日本が受け入れるはずのないこと、あるいは初歩的に間違った認識を公然と述べている。ちなみに、1951年9月8日、日本はサンフランシスコ平和条約に調印した同じ日に米国との間で日米安全保障条約に署名し、米国との防衛面での同盟関係を確立した(翌年4月発効、1960年改定)。このような間違った発言に対しても、日本側はメディアや専門家も含めて沈黙している。ロシア人が「交渉は気に入った、100年でも200年でも続けていい」と言うのも当然だろう。