こんな交渉ならロシアは100年でも継続してよい
日露関係を熟知している知日派のロシア人が、最近私に個人的に次のように述べた。
「ロシアは日本の交渉術が大変気に入っているようで、ロシア人は100年でも200年でも(そのような)交渉を継続してもいいと言っています。6月のG20サミットの際の日露首脳会談でも、ロシア側は難しくないことを難しく見せ、日本からさまざまなお土産をもらい、しかも領土交渉はまったく前進なしですね。日本は日露関係の歴史についても事実関係をはっきりと発信していません。『100回の首脳会談は1回の歴史的真実の発信にしかず』です。日本側がどんどん歴史を発信しないと、誰がやってくれるでしょう」
日本人は、対人関係でも対立や関係複雑化を避けるために、不満があっても直言せず、婉曲に表現することが多い。10言いたいことがあっても、3か4を述べれば、相手は推測、忖度(そんたく)して10を理解するからだ。これは、日本が島国かつほぼ単一民族で、文化や心理を共有しているから可能となるのだろう。
しかし国際社会では民族、宗教、文化、生活習慣がまったく異なる人たちが混住しており、間違いや批判すべきことがあれば、遠慮なくきちんと主張しなくてはならない。10言いたいことがあれば、時には15述べなくてはならない。外交においてもこれは常識である。
売られた喧嘩は買うのが国際会議や外交の常識だ
数年前わが外務省のある首脳(外務副大臣)が、次のように述べた。
私は自ら学んだ教訓で「売られた喧嘩(けんか)は買わない」をモットーにしている。日本外交でも一部の近隣国から低次元の喧嘩を売られることがあるが、彼らの低い次元に降りて言い争ってはならない、と。そうしなくても、きちんと国連や国際機関に働きかければ、日本支持の国際世論を作ることができる。
しかしわれわれが「低次元の喧嘩は買わない」とか「大人の対応をする」とお高くとまっている間に、相手の「低次元の論理」が世界に浸透して、日本側が客観的な事実を伝えようとした時には、国際機関でさえもはやそれをまったく受け付けない状況が生まれる。韓国による慰安婦問題がその典型だ。国際会議や外交の場では、売られた喧嘩は買わなくてはならないのである。