決断のできるトップが持っている「考え方」

僕はつねづね、部下である職員に「案を出すときには、三つ出してほしい」と言っていました。最善と考える案、その対極の案、中間のマイルドな案の三つです。

一つの案を持ってきて、メリット・デメリットを説明されても、その優位性がわかりません。一案でなく、その対極にある案、中間の案の3案を用意して、それぞれのメリット・デメリットを比較して説明してくれれば、判断しやすくなります。

そして、僕が案を検討するときに重視するのは、「比較優位」という考え方です。

A案、B案、C案を比較して、B案が比較優位であるならば、B案のデメリットには目をつぶる、という考え方です。簡単に言えば、いちばんマシな案を選ぶということです。

トップは難しい案件ばかり抱えています。比較優位の思考回路を持っていないと、デメリットばかりに目がいってしまって、何も決断できなくなります。

僕は、この思考回路こそ、実行力のあるリーダーになるために、非常に重要なものであると考えています。

日本人は「比較優位」の思考回路が足りない

新しいことや改革を実行しようとするときに、問題点ばかりを挙げる人がいます。もちろん、どんな案にも問題点はたくさんあるでしょう。

しかし、現状に問題点がないかというと、それは違います。現状に大きな問題点があるから、変えていこうとしているわけです。現状と新しい案の両者を比較して、「よりマシなほうを選ぶ」「よりマシなほうの問題点には目をつぶる」という思考が大事なのです。日本の議論には、こうした「比較優位」の思考回路が足りないと痛切に感じます。

僕らが、大阪湾岸部の広大な埋め立て地へカジノを誘致する案を出したときにも、反対派はカジノの問題点ばかりを指摘しました。

たしかにカジノには、ギャンブル依存症を生む危険性など、いろいろな問題がありますが、そんなことはわかっています。でも、現状の埋立地にぺんぺん草が生えているままの現状より、カジノ誘致のほうがよりマシなのは明らかです。

莫大な数の観光客の集客や雇用増などの経済効果、そして周辺地域へのその波及効果、さらにはカジノ事業者からの数百億円にものぼる大阪府市への納付金という大きなメリットがあります。比較優位なカジノ誘致案を選んだのなら、その案の問題点には、ある程度目をつぶりながら、問題が起きないよう対応していくしかありません。

一つの案のメリットばかり強調するのも、デメリットばかり強調するのも、より良い選択にはつながりません。両案のメリット・デメリットをそれぞれ挙げて、比較優位なほう、よりマシなほうを選ぶという思考が必要です。