口コミ重視のネット通販にシフト

「かつてはお鮨屋さんに売り込んだりしていましたが、効果が少ないのでやめました。お店から『使いたい』と言っていただけるいいものを造っているほうがいいんです」(同)。問屋を介した有名百貨店での販売から、口コミ重視のネット通販にシフトしているのも、時代に合った戦略と言えるでしょう。

「この20年で、BtoCの割合は、3%から24%に上がりました。問屋を通さない直販は手間がかかるため、社員の数も倍以上に増員した。売り上げは10から20%しか上がっていないのですが、BtoCになった分、利益も上がっているので、人件費を増やしても大丈夫なんですよ」(同)

東京へ社員旅行に行き、そこでお客様と富士酢を使った「手巻き寿司パーティ」を行うなど「お客様の顔が見える」「美味しいという声を直接聞ける」ことが、従業員のモチベーションのアップにもつながっています。これも、BtoCの効果でしょう。

さらに、お鮨屋さんの無償コンサル業も行っています。「そのお店らしい個性のあるシャリの相談に乗っています。このネタなら、このシャリが合いますよ、という具合で3回繰り返すと、理想のシャリができ、そのレシピをお渡しします」。すると、その店が富士酢のファンになり、顧客になるというわけです。2018年10月には、鮨職人を集めてシャリ作りの腕前を競う「世界シャリサミット」も行うといいます。

デザイン思考に、「ユーザー共創」という考え方があります。作り手とユーザーが直接接点を持って一緒に考えることで、新たな機会を見つけたり、商品アイデアについてすぐにフィードバックを得ることができる。経営者としてはそういう場を作ること自体が、企画のヒントをもらう意味でも、社員のモチベーションアップという意味でも重要なのです。

▼デザイン思考のポイント:直販比率の大幅アップで実現した「高品質」への追求

会社概要【飯尾醸造】
●本社所在地:京都府宮津市小田宿野
●資本金:20,000千円
●売上高(2017年):394,779千円(前年比101%)
●従業員数:32人
●沿革:明治26年創業。初代が日本一のお酢を造りたいと富士酢と命名。3代目が1964年から無農薬米によるお酢造りに転換。2017年7月よりレストラン事業を開始した。
佐宗邦威
BIOTOPE代表 京都造形芸術大学客員教授
1980年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。P&Gジャパンに入社し、ブランドマーケティングに携わった後、ソニーを経てBIOTOPEを創業。米国イリノイ工科大学にてInstitute of designを修了。18年8月より大学院大学至善館准教授。
(構成=伊藤達也 撮影=福森クニヒロ 写真提供=飯尾醸造)
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