古い殻を破り、新しい業態を生み出す。言うは易く行うは難しだが、これをクリアし急成長を遂げている会社がある。島根県松江市に本拠を置き、島根、鳥取、山口、広島の4県で主に電気設備事業を展開する島根電工である。
公共事業を中心とする大口工事に依存していた同社は、2000年代に入り、一般家庭向けの小口工事受注に大きく舵を切った。「住まいのおたすけ隊」(写真下)と呼んでいるこの事業は大当たり。業績を飛躍させ、地元の雇用も増やし、FC展開も進めている。
子会社3社を含むグループの前期売上高は、バブル期の3倍弱に当たる167億円。うち約半分が一般家庭向け工事によるものだ。地方再生のカギとされる地域循環型ビジネスの成功モデルともいえる同社。明治大学の森下正教授が成長の要因を解説する。
ヤマト運輸と同様に小口で高収益を上げる
▼地域循環型
島根電工は、電気工事を軸に空調、上下水道、通信、防災など幅広く設備工事を手がけてきました。かつては売り上げの7割以上が、数百万~数千万円の大口工事で占められていたといいます。そんな同社にあって、一般家庭向け電気工事に着目していたのが、現社長の荒木恭司氏です。1990年代後半、営業所長から本社に戻り、常務取締役に就いたころでした。
「当初、社内では『そんなものは儲けにならん』と、相手にされませんでした」と荒木氏は振り返ります。
「バブル崩壊とその後の不況で、当時は大口工事が減る一方。何か手を打たなければ会社を維持できない。新しい仕事をつくり出さねばという危機感がありました」
日本の建設投資額は92年、公共事業費は97年をピークに、11年までにほぼ半減します。社内の理解を得られないまま、荒木常務(当時)は97年、少人数のチームを編成し、小口工事の受注を開始しました。
「大口工事は競争が激しく、受注価格を下げないと仕事がとれない。下手をすれば粗利も出なくなります。一方、家庭向け工事は、1件の金額は小さいけれど、適正価格での受注ですから、確実に利益が出ます」(荒木氏)
業務密度を上げることで高収益につなげる。荒木氏のこの考え方は、ヤマト運輸が宅急便を始めたときの、小倉昌男社長の考え方と同じです。
しかし、当初はうまくいきませんでした。従来の業務手順では、見積もり、受注、施工、集金と社員が何度も顧客宅に足を運ばなければならなかったからです。1カ月の受注件数が、社員1人当たり1、2件という有り様でした。
状況が大きく変わったのは06年、自社開発による携帯端末「サットくん」の誕生でした。