「社内の自販機の前で、清涼飲料水メーカーの人がポンポンと叩いていた小さなコンピュータ端末を見て、これだ! と閃いて、友人のソフト開発業者に頼んだんです。意外にも3、4カ月程度で出来上がりました」(荒木氏)
施工業者は技術のことはわかっても料金は営業任せでしたが、「サットくん」は現場で料金を見積もって請求書をつくり、さらに回収もできる。その場で支払う明朗会計だから、客も嬉しい。「目の前で喜ばれますから、楽しくてしょうがない」(同)。これによって、コストの大幅減と、受注数の飛躍的な伸びを達成できたのです。
もともと電気工事は、コード1メートルがいくら、コンセント1個がいくら、と資材原価が明確なので、原価企画(利益を生むことのできる原価の管理)がしやすい業種だと思います。おそらく同社は、小口受注に乗り出す以前から、原価企画をしっかりとやってきた会社なのでしょう。だから、このような情報システムを活用した効率化が実現できたのだと思います。
荒木氏が社長に就任した2年後の12年、島根電工は77億円の小口売り上げを計上。そのうちの7割余りが5万円以下の工事ですが、この段階で同氏は「公共工事がどれほど減っても、経常利益率5%を確保する体質ができた」と述べています。
Pフライデーは社員に4000円ずつ支給
小口受注へシフトするにあたり、荒木氏が力を入れたのは、社風づくりと職場の環境整備でした。大口工事の受注先は、主に官公庁やゼネコン、工務店などの建設業者。対して小口工事の受注先は個人。「大口が最優先、小口はついで」という従来の社員意識を変え、個人客への接し方、仕事の仕方も身につけてもらわなければなりません。
しかし、荒木氏は「顧客第一」とはいいません。まず社員とその家族、次に関連会社の社員とその家族。3番目に大事なのがお客様だと公言しています。さらに「企業の社会貢献は、雇用にある」ともいいます。そして、職場の環境整備は、社員が自主・自発性が発揮されるよう制度化されています。
その考え方がよく表れているのが、同社の人材育成と、今日の働き方改革にも通じる福利厚生。充実した研修制度には目を見張るものがあります。
同社の新人は、20日間の研修を皮切りに、3年間で計10回、延べ45日間の宿泊研修を受けます。研修内容は、専門知識・技術にとどまらず、経営理念の理解や規律、マナー、働く意義などにも及びます。それ以後も、すべての社員が職種や役職に応じた研修を受けるよう仕組みづけられており、講師がすべて自社の社員であるのも特色。70年から続くビッグブラザーという新人支援制度は、先輩社員がマンツーマンで新人社員に付き、仕事から私生活まで何でも相談にのる仕組みです。