父親に言われた「お前は色使いがうまいな」
私は子どもの頃、絵を描くことが好きだった。将来は美大に行ってデザインかアートの仕事をしたいと思っていた。自分としては絵を描くとき、線を取ることが一番得意だと思っていたのだが、ある日、父親から「お前は色使いがうまいな」と言われたことがある。
「あ、そうなんだ。でもそうかもな」と思うようになって、その後は着色するときに色使いをそれまで以上に意識するようになった。数多くの色の種類を記憶し、絵の具を増やしていった。カラフルな色使いはキャンバスをやがて超え、自分が起業してはじめて作った企業の状態を可視化するサービスに反映されて評価された。
父親がどこまで意識してその言葉をかけてくれたのかはわからない。そのフィードバックが正しかったかどうかもわからない。ただ、そうした些細な言葉がその後の私の意識の向き先を少し変えたことは事実だし、絵一つをとっても人の強みは何百個もあるということである。
だからいろいろな仕事を経験するのと同じ理屈で、子どもの頃は親の先入観にとらわれず、いろいろなことを経験させてみることが大事だと思う。そのほうが汎用的な武器を見出しやすい。
夢がないなら「宇宙飛行士」を目指せばいい
自分には天才性などないとあきらめる人もいるだろうが、この世界にスーパーマンは存在しないし、存在してはならない。人間とは常に自分のわずかな個性を際立たせ、人と分かち合い、互いに分業することで繁栄していくことを生存戦略とした生物種だからである。お金の形態が変わろうが、お金自体がなくなろうが、それは変わらない。
よって大切なことは「自分とは何か?」という定義を深めていくこと。そして、新たに定義した自分を広く世界と分かち合っていくこと。それはつまり、自我を弱めつつ、同時に、自分自身が外に向けてのインスピレーターたることだ。
スペシャルな存在を目指すのではなく、ユニークな存在を目指そう。
本当に、夢がない、やりたいことがない、何をすればいいかわからないなら、とりあえず今は宇宙飛行士を目指せばいい。もちろん冗談ではない。
宇宙飛行士になれる条件は母国語を含めた2カ国語を話せること、理学部、工学部など自然科学系の大学卒業資格、自然科学系分野での実務経験(3年以上)、利他性や柔軟性といった性格の良さ、健康な心身、ユーモアがあることなど、地球上で存在するあらゆる職業の中で最もオールラウンドなスペックが求められる職業だ。しかも、2040年には宇宙飛行士になるハードルは人口の1%まで下がると予測されている。
実際に宇宙飛行士になることはないかもしれないが、やりたいことが何も思いつかないなら、地球一のハイスペックを目指せば、社会がどう変化しようと必ず仕事はあるということだ。何もしないよりはよほどいい。
事業家・思想家
早稲田大学政治経済学部卒。東京大学大学院修士(社会情報学修士)。専門は、貨幣論、情報化社会論。1990年代より大手外資系コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わったあと30歳で独立・起業。劇団経営、海外ビジネス研修プログラミング事業をはじめとする複数の事業、会社を経営するかたわら、執筆・講演活動を行っている。