接客業ではなく「FBI捜査官」でもいい

たとえば接客が得意な人であっても、接客を要素分解していけばいろいろな強みが考えられる。

中には相手のマイクロ・エクスプレッション(微表情)を見逃さないことに関して卓越した能力を持っている天才もいるだろう。そのような才能を持っているなら接客にこだわる必要などなく、FBI捜査官や税関職員になるという選択肢が出てきてもいいはずだ。

このように自分の武器が微細であるほど、さまざまな選択肢への応用力が増す。

私は思考力という武器を持っていて、それを活かせる領域としてM&A(企業分析)があった。周囲の人から「なぜ今はM&Aをやらないんですか?」と、さも人生の方向性を変えた人のように言われても困ってしまう。

思考力を活かせる局面はM&A以外にいくらでもあり、投資でもいいし、研究でもいいし、起業でもいい。

ただ、微細ということは知覚しがたいことでもある。

それに気づく最も効果的な方法は、自信を持つことだ。「自分には絶対に何かしらの取り柄がある」と信じることができれば、短い時間でそれを見つけることができる。ただ、これも言うは易しで、よほどいい人たちに恵まれないと自信を持つことはなかなかできない。

子どもには肯定的なフィードバックを

そうなると現実的な方法としては、周囲からのフィードバックをどれだけ受けられるかだ。あなたが普段周りからよく褒められる要素は、まぎれもなく天才性のヒントとなると言っていい。

中でも、「ジョハリの窓」論が指摘するように「自分が知らない自分の姿」を知っていき、盲点の窓(blind self)を狭くしていくことで、自分の強みと弱みはより浮き彫りになっていく。

読者の中には、この本を自分の子どもの教育指針の参考として読んでいる人もいるだろう。そうした人にはぜひ、子どもの日々の行動を注意深く観察し、できるだけ肯定的なフィードバックを与え続けてもらいたいと思う。

たとえば子どもがダンス教室でいつも先生から褒められているとしても、「じゃあ将来はダンサーかな」とすぐに判断するのではなく、柔軟性、体幹、リズム感など、ダンスの要素を分解してみる。ダンスだけではメッシュが粗すぎるからである。その結果、子どもの天才性は表現力にあると気づいたら、それをしっかりフィードバックしてあげるのだ。