東京には「3大名門公立小学校」と呼ばれる学校がある。そこに通うには、決められた学区に住んでいる必要があり、そのために引っ越す家族もいる。中学受験塾を経営する矢野耕平氏は、「そうした名門校は中学受験する子がほとんどだが、だからといって学習環境がいいとは限らない」と指摘する――。

「名門公立小学校の学区です!」が不動産広告のうたい文句になる

親であれば、わが子に対して「より良い教育環境を整えてやりたい」と願うものだ。そうした動きの象徴として「学区を踏まえた住まい選び」が挙げられる。

子が生まれれば家は手狭になる。そして賃貸住宅からマイホームに移り住むには、「第一子の小学校入学」というタイミングがちょうどいい。そこで「学区」という条件が注目される。私の経験上、こんな悩みを抱える親は少なくない。

「わが子が充実した6年間を過ごせる小学校はどこなのか?」
「学級崩壊状態の小学校にはわが子を通わせたくない」
「中学受験を考えているが、どの公立小学校ならその準備を進めやすいのか?
「親同士のトラブルが少なそうな小学校を選択したい」

不動産情報誌では「学校力調べ」というタイトルで教育環境のいいエリアを特集。

不動産の物件広告では、「名門・○○小学校の学区です!」などとうたっているものがよくある。また駅の構内やコンビニなどで見かける不動産情報誌でも、「エリア別の教育環境」が大きな見出しになっている。

果たして、同じ公立の小学校とはいえ、学区や学校の違いによって学力伸長の度合いは変わるのだろうか。今回、わが子を「名門公立小学校」に通わせていた、もしくは現在通わせている親たちに話を聞いたところ、意外な声を耳にした。

私立中学受験率が90%を超える公立小学校もある

わたしは中学受験専門塾を営み、世田谷区奥沢と港区三田に教室を開いている。

近隣の小学校を見ていると、中学受験に対する「温度差」が小学校によってかなり違っていることを実感している。確かに親の教育意識、中学受験比率が飛びぬけて高い小学校があるのだ。そして、その近隣の公立小学校は反対に中学受験比率がかなり低く、大半の子が地元の公立中学校へ進むところもある。同じエリアであっても、小学校によってこんなに違いがあるのだ。

たとえば、前者のタイプの小学校に通う子の保護者は教育熱心な人が以前から多い。中学受験率も極めて高く、合格者を輩出している「名門小」という認識が、塾関係者の間にある。