胃・十二指腸に潰瘍ができ、空腹時にチクチク痛みを起こす胃・十二指腸潰瘍の原因は、認知度の高いヘリコバクター・ピロリ菌である。感染は口からで、5歳以下の子どもに限られている。大人になると、免疫力が強いので排除できるが、幼少期では排除できず、ピロリ菌を持ち続け、胃炎、胃・十二指腸潰瘍を患いやすい体質になる。
胃壁は5層になっており、最も内側が粘膜。その粘膜から胃液、粘液が分泌される。ピロリ菌は胃の粘液の中にすみついている。胃液から身を守るために「ウレアーゼ」という酵素を分泌して胃にある尿素を分解してアンモニアをつくる。アンモニアはアルカリ性なので胃液から身を守ることができるのである。そのアンモニアは、ピロリ菌を守るが胃の粘膜には障害を与え、慢性胃炎の状態をつくりあげてしまう。こうなると、ちょっとしたストレスでも胃・十二指腸潰瘍が起きてしまい、再発に苦しめられることになる。
再発を抑えるために保険適用となっているのが「ピロリ菌の除菌治療」である。
胃・十二指腸潰瘍の診断には、問診後に上部消化管内視鏡検査を行うのが最もオーソドックス。そして、ピロリ菌の感染の有無については胃の組織を採取して、その組織を使って行う「ウレアーゼ試験」「組織鏡検法」「培養法」がある。
組織を用いない方法には、血液や尿中のピロリ菌に対する抗体を調べる「抗体検査」、便で調べる「便中抗原検査」、特殊な炭素を含んだ尿素の検査薬を、飲む前と後の息を取って調べる「尿素呼気試験」がある。このいずれかの検査でピロリ菌の感染が確認できれば、除菌治療に入る。
除菌治療は「3剤併用療法」。3種類の薬を服用する。「アモキシシリン」「クラリスロマイシン」の2種類の抗菌薬と胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の「ランソプラゾール」「オメプラゾール」「ラベプラゾール」から1つを選ぶ。
この3剤を朝食後と夕食後の1日2回、1週間服用。終了後、4週間以上たって再度ピロリ菌の検査を行い、除菌の成否を判定する。1回目での除菌成功率は85%程度だったのが75%程度まで低下してきている。これはクラリスロマイシンに耐性ができたからで、この場合は2度目の除菌治療となる。3剤併用療法の2種類中1種類をかえるのだ。クラリスロマイシンを「メトロニタゾール」にして、後は同じ薬を使い、同じように服用する。この薬をかえて行う2回目の除菌も2007年8月から保険適用となった。
除菌の成功は、治療中にわかるという患者も多い。曇り空のような胃の感じが、除菌中に快晴のような感じ、スッキリ感に満ちてくるのだという。
ただし、副作用には十分に注意する必要がある。出血性大腸炎を起こすと、血便とともに重症の下痢に見まわれる。
治療中は酒やタバコは極力控えるべきで、特にメトロニタゾール服用中は禁酒とすべきである。
【生活習慣のワンポイント】
ピロリ菌の除菌に成功した人の中には、10人中1人くらいの割合で「逆流性食道炎」を起こす人がいる。胃酸が逆流するもので、胸やけがわかりやすい症状である。
これは胃の粘膜が若々しくなり、胃酸分泌が回復したからで、当然、食事が美味しくなるので食欲が増し、太る人もいる。胸やけ、体重増加を抑えるために、食事は腹八分で規則正しくする。そのうえで、胸やけを起こしやすい以下の食べ物はほどほどに――。カレーライス、天ぷら、ハンバーグ、サツマイモ、カボチャ、シューマイ、オレンジジュース、コーラ、ビール、シャンパン、コーヒーなど。