「年のせい」ですまされてしまい、早期発見に結びつきにくい病気がある。それと同様に、「性格」が原因だと片付けられてしまう病気もある。そのひとつが「社会不安障害(SAD)」。人前に立つと「足が震え、心臓がドキドキする」「顔が赤くなる」などの症状が出るならば社会不安障害の可能性が極めて高い。実は、大きな社会問題となっている「ニート」や「引きこもり」も、外的な要因や性格の問題ではなく、疾病を患っていることがある。

思春期、青年期の15歳くらいで発症する人が多く、身の回りの社会的な状況に対し、恐怖、不安におびえている。

社会不安障害を定義として示すと、「社会的状況や行為状況に対する顕著な恐怖」である。事実、「人前で話す」「初対面の人と話す」「権威者の相手をする」「人前で文字を書く」「人前で食事をする」――このようなときにパニック発作の形をとることもある。

日本では「対人恐怖症」「赤面恐怖症」「吃音(きつおん)恐怖症」などと以前からいわれていたものである。つまり、人前に出ると過度な緊張状態に陥ってしまう。

精神・神経疾患の中では「うつ病」「アルコール依存症」に次いで多い疾患で、患者の多さで上をいく2つの疾患と社会不安障害は併存するケースが多い。

遅まきながら病気と認識され始めてきた社会不安障害。人前で心臓がドキドキして震えるといった状態がもう一歩進むと、日常生活にも社会生活にも大きな支障をきたす病気なので、性格のせいだと片付けず、精神科もしくは心療内科を受診し、「問診」とともに「社会不安障害評価尺度(LSAS)」を用いての検査を受けることが必要である。

治療は「薬物療法」と「認知療法」。

薬物療法で使われる薬は、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」が中心である。

脳内の神経伝達にはセロトニンなどの伝達物質が重要な役割をはたしている。社会不安障害になると、脳内のセロトニンが不足状態になっているため、不安が大きくなる。

そこで、セロトニンの再取り込みをSSRIで阻害すると、セロトニン量が増加して不安を抑制してくれるのである。このSSRIは2005年から社会不安障害の適応が追加され、治療の中心薬となった。以前は、抗不安薬が多く使われていた。抗不安薬の使用に問題はないのだが、抗不安薬によって依存症を引き起こすケースが多く報告されていた。

認知療法は、まず社会不安障害の患者に病気であることを認知してもらうことから始まる。行動療法を加えることもある。薬を使って不安を和らげたうえで、人前でのスピーチにチャレンジする。繰り返してチャレンジを続けていくうちに適応力が高まり、心臓のドキドキがおさまっていく。最近はバーチャル化した人前実験を導入しているところもある。

最終的には薬を服用しなくても、過剰な不安に襲われないようにする。平均1年といわれる治療期間も、実際には、2~3年かかってしまう患者が多い。

【生活習慣のワンポイント】

社会不安障害は、生活習慣が関係するという病気ではない。ただ、患者が寛解(自覚・他覚症状が一時的、あるいは永続的に軽快した状態をいう)へと近づくには、認知・行動療法が大きなポイントとなる。成功体験を積み重ねる必要がある。

人前で話すことに挑戦することから一歩が始まる。家族の前で、仲間の前で、同僚の前で、少しずつ人前で話すようにする。そのとき、大きく腹式呼吸を何度か行ってみる。それで、ドキドキ感が抑えられるようになったという人は多い。その方法を日常的に行うようにすると、大きな前進となる。つまり、不安状態を解消する方法を専門医などから教えてもらい、生活習慣にするのもひとつの方法である。