ロボットにまで拒否されれば、所有者は深く傷つく

この考察は、ロボットがもっと高度化した場合に、とくに重要なものになってくる。ここでは、答えを示すというよりも、どのような問いが成り立つか、いくつか考えてみよう。

第一の問いは、親密な他者としてのパートナー・ロボットは、どこまで性的な関係を誘惑したり、あるいは拒絶したりすべきだろうか、というものだ。過剰な誘惑は、所有者に身体的・精神的な負荷を与えるかもしれない。性的な関係の拒絶は、ロボットをより人間的に見せる要素になるかもしれないが、何度も人間から拒否された経験がある場合には、所有者を深く傷つけることになるかもしれない。

第二の問いは、パートナー・ロボットは、ロボットだということをどこまで所有者に認識させるべきか、というものだ。ロボット技術の高度化は、いま以上に感情的な依存を引き起こすかもしれない。所有者の好みにより忠実になるプログラムがロボットに組み込まれるとすれば、所有者は、そのロボットの関係に満足し、リアルな人間との関係を築こうとしなくなるかもしれない。

第三の問いは、パートナー・ロボットは、人間とは異なる性的な刺激を与えたり、誘惑をしたりできるようになるべきか、というものだ。ロボットが複数の手や乳房、性器を持つことは、所有者をより満足させるかもしれないが、それに慣れることは、やはり現実の人間との関係を疎外するかもしれない。

人間関係に疲れる人が増えれば、ロボットの人間化は失敗する

パートナー・ロボットを高度化することは、パラソシアルな関係を、ある部分、双方向なものに変えることを含んでいる。ロボットが、SF的な意味で自律化するようになれば、それは一層顕著になるだろう。それは、ロボットとの非対称的な愛の関係を、つまり、一方的な思い入れを、人間同士の関係と同じように対称的なものに変えることを意味する。

そうなれば、人間とロボットとの性的な関係にも、おそらく同意や不同意が必要とされるようになるだろう。ロボットやドールとのセックスを「レイプ」と見なす論者もいることを考えると、こうした方向を望ましいと言うのはたやすい。

しかし、その時、セクシャル・ヘルスの市場やロボット市場は、どのようなものになるだろうか。先に挙げた調査への参加者たちと同じように、孤独を癒やすことを求める人びとや、人間関係に疲れた人びとが増えるなら、ロボットを技術的な面で人間化する方向は、市場においては失敗することになるだろう。

ロボットがSF世界のように自律化する未来が来ても、本当に人びとが求めるのは、パラソシアルな関係を築ける稚拙なロボットなのかもしれない。

堀内 進之介(ほりうち・しんのすけ)
政治社会学者
1977年生まれ。博士(社会学)。首都大学東京客員研究員。現代位相研究所・首席研究員ほか。朝日カルチャーセンター講師。専門は、政治社会学・批判的社会理論。近著に『人工知能時代を<善く生きる>技術』(集英社新書)がある。
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