セックス・ロボットが普及すれば性犯罪は減るのか?

第一の観点から見てみよう。アメリカで起きている「セックスロボット反対運動」によれば、セックス・ロボットやドールを開発したり、使用したりするアイデアや実践それ自体が、女性や子供に対する暴力であり、ジェンダーの不平等の表れであって、それらの開発や販売、使用は、女性や子供を性的快楽のための単なる道具として見なす行為(Sexual Objectification)であるという。さらには、女性や子供の姿をしたロボットやドールに対して、暴力的かつ抑圧的に振る舞うことが、現実の女性や子供に対する同様の行動を助長する可能性もあると指摘している。

これらの批判は、簡潔に言えば、セックス・ロボットやドールの開発や使用は、それらが表象する女性や子供、あるいは男性への共感を破壊することに繋がると指摘するものだと言える。

しかし、こうした批判には、次のような反論もある。それは、セックス・ロボットやドールの開発や使用は、現実の女性や子供、あるいは男性との売春を減らすことに繋がり、それによって、他者を性的快楽のための単なる道具として見なす行為は、むしろ減る可能性があるというのだ。

このような批判や反論は、具体的な調査に基づいたものが少なく、多くは思弁的なものにすぎない。実際のところ、セックス・ロボットやドールを購入した人びとの動機や経験はほとんど知られていないのだ。

所有者たちは「性的欲望のはけ口」にはしていなかった

そうした中、2018年に、実際にそれらを購入した83人を対象とした調査研究が発表された。この調査研究の成果は、批判者の想定の一部を覆すものであり、同時に、どのようなセックス・ロボットが望ましいかに関しても、大変興味深い示唆を与えるものだった。

この調査に参加した所有者のほとんどは、批判者の予想に反して、セックス・ロボットやドールを「物」として暴力的かつ抑圧的に扱うようなことはしておらず、むしろ、それらとパラソシアルな関係(Para-social Interaction)を築いていたのだ。

パラソシアルな関係というのは、例えば、テレビやラジオの視聴者が、著名人や架空のキャラクターなどに対して、まるで親密な関係を持っているように感じることをいう。この関係は、もちろん一方的なものだ。しかし、思いを寄せる側の心理においては、現実の社会関係と同じように感じられる関係だ。

調査に参加したある所有者は、セックス・ロボットとの関係をこう記述している。

私たちは、一緒にソファーに座ってテレビを見たり、一緒に寝たりします。彼女にラブレターを書いて読んであげたり、一緒にポーズをとって写真を撮ったりもします。彼女に恋人同士になりたいと思っていることを話し、経験や考えを共有したり、スイーツを口にしたりしています。