話さなくて済む、仕事はほぼない

コミュニケーションの第一歩である「雑談」をすっ飛ばして、チャンスが舞い込む人はいない。では、肝心の「雑談」スキルを向上させるには、どのような心構えが必要なのだろうか。

今回、同氏を含め3人の「雑談のプロ」から話を聞いた。前述の安田氏はコンサルタント、田中イデア氏は放送作家、秀島史香氏はラジオDJ・ナレーターと、それぞれ活躍するジャンルは異なるが、実はある共通点が存在する。それは全員が、「本来は話下手だった」という過去だ。

安田氏は帰国後、荒療治として結婚式の司会に片っ端から名乗りを上げ、「若い頃だけで50回近くやった」という。

一方、「ウケる! トーク術」のノウハウを伝授する田中氏も、若い頃は人見知りだったという。家で1人ラジオを聴き続け、好きなラジオの仕事に就きたいと放送作家になった。「ところが、書く仕事がメインかと思ったら、実は大勢と関わり雑談をする力が必要だった(笑)」。業界のベテラン作家は話術が巧みで面白い。中堅どころは場を温め、お酌をするなど機転が利くなか、新参者の田中氏だけは、どちらもできなかった。「仕方なく、とにかく毎回顔を出して、話を熱心に聞き続けるアピールをして、ようやく存在を認識してもらえるようになったんです」という。その後、お笑い芸人のトーク術の研究を続け、「雑談」の奥義を伝授するまでに至る。

ラジオDJの秀島氏も同様の悩みを抱えていた。「人見知りであがり症、毎回緊張で震えながら、『なんでこの職業に就いたのか』と自問自答しつつ、ゲストを迎えていた」と振り返る。初対面のゲストと向かい合い、数時間も台本なしのトークを繰り広げる試行錯誤から、稀有な「雑談力」が育まれた。

好きこそ物の上手なれという言葉があるが、苦手な分野だからこそ研究を続け、技を磨いていく人々もいる。3人ともが自らの体験をもとに強調するのは、誰もが「雑談力」を上げることは可能だという点だ。では、彼らの伝授する雑談の奥義を見ていこう。

1.5倍の笑顔で、人の話を聞く

まず3人ともに「雑談力」アップの第一歩に挙げるのは「聞く力」だ。

「雑談は、喋ることだと誤解している人が多いですが、実際はむしろ人の話を聞く姿勢が一番重要です」(安田氏)

会議や商談の席で相手の話を聞いているとき、あなたはどのようなリアクションをしているだろうか。

「真摯に聞いている」だけの人は要注意だ。「相手の目を見て聞いている」でも十分ではない。