老後資金3000万円すべてを失う

このような飲食店絡みの詐欺の手口は、G氏たちだけのやり口ではない。同種の詐欺的な手口が複数の日本人によって実施されている事を、筆者は取材で確認している。

取材の途上で筆者は、G氏とは別の日本人から誘われてカンボジアへの飲食店へ投資し、老後資金3000万円をすべて失った高齢の日本人男性のケースも確認した。この高齢の男性は2014年に財産を失った直後、バンコクの日本人の多く居住するアパートの一室で、首を吊って自殺した。

筆者が現地の大手法律事務所に問い合わせたところ、同事務所が把握しているだけでも、バンコクやパタヤなどの都市部で100件以上の被害があるという。現在は同じ犯行グループのメンバーがカンボジアでも同様の手口の投資詐欺を行っており、「このような詐欺を繰り返している日本人法人やグループは、現地警察がマークしているだけで10グループ前後に及ぶ」(同事務所)という。

日本でもタイでも、詐欺罪は犯意の認定などが難しく、被害者の多くが恥ずかしさのあまり泣き寝入りするので表面化しにくい。しかもタイ警察にとっては外国人の間の投資トラブルであり、「単なる事業の失敗だ」と説明されると動きづらい。アジア有数の親日国であるタイを舞台に、日本人が日本人を騙すこうした手口が広まっている背景には、こうした事情がある。

もっとも、現在のタイ政府は日本政府と共同でEEC(東部経済回廊)の開発を行うなど積極的に日泰関係をよくする事に努めている。それもあって、タイの一部公務員の賄賂を使った嫌がらせの手口も、日本の企業や個人が被害に遭わないよう、タイ政府はPACC(汚職防止局)を設立して取り締まりを強化し、問題解決のために尽力していることを、筆者は直接確認している。このようなタイ政府側の努力により、こうしたケース自体は今後減っていく事が期待される。

「日本人同士だから、騙されない」という油断

この問題について、筆者の所属するパタヤ日本人会の会長で、日本の警視庁公安部OBである岩拼(いわはえ)健一氏は、次のように語る。

「海外の儲け話の場合は、日本の話以上に注意をする必要があります。日本人同士だから、まさか騙さないだろうという気持ちが先行しがちですが、悪事を考えている、働いている日本人も数多くいることは事実です」

「このような詐欺に合わないために、事前の調査や確認は必要です。バンコクはもちろん、パタヤなどの東部の都市でも現地に日本人会なども作っていますので、常日頃から良い関係を作り、投資をする際には、現地に詳しい人を含む多様な先へ相談し調査をしてから冷静に検討をする事をお勧めします」

情報が得にくい海外への投資話は簡単ではない。このような詐欺話が蔓延している中、東南アジアの成長国ならば儲かりそうだと安易に投資するのではなく、現地の実情を多方面からよく調べるなど、細心の注意を払わなければならない。

なお、タイなど東南アジアの日本料理店の多くはきちんとした業務を行っており、ここで述べたようなケースは、ごく一部のものである事は明記しておく。

取材協力=PJA(パタヤ日本人会)(タイニュースを毎日更新「PJA NEWS」配信中)
(写真=iStock.com)
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