「最高の場所をバンコクで確保できたので、投資をしませんか?」

「G氏には、バンコクの中心部にある店まで連れていかれました。店の駐車場にはベンツやBMWなどの高級車が並んでいて、高級店だなとすぐにわかりました。店に入ると、店員たちがG氏に丁寧にあいさつしていました」(同)

「詐欺話だったら、こうして実際にお店を見せる事はできませんよ!」――G氏は胸を張ったという。

「出された料理は、日本の都心の中級以上の店と比べても遜色無いほどの味や盛り付け。これには受講者も皆、感心していました。周りのテーブルを見ると、確かに非常に値段の高い料理が多数注文されていました」(Aさん)

“視察”の後、G氏は「ここに来てくれた皆さまだけに提供する、特別なお話があります」と切り出した。「こうしたお店を新しく出店できる最高の場所をバンコクで確保できたので、そこに投資をされませんか?」という投資の誘いだったという。

「『タイでは難しいきれいな内装や仕入れ、さらに会計や法務まで、全部を低コストでうちがやります』『みなさんは、たまに旅行としてタイに遊びにこられるだけでいい』『およそ5000万円を投資してもらえれば大丈夫、後はプロに任せてください』と」(Aさん)

「ここまで来てくれた皆さまだけにお誘いする、今だけの特別な投資話です!」という殺し文句に押されてか、何人もの参加者たちが投資をしていたという。脱サラのよい契機だと考えたAさんもその一人だった。

CGで作成された、ある店舗の完成イメージ

5000万円出資して日本人街に店をオープン

では、Aさんと投資先の店舗は、その後どうなったのだろうか?

Aさんは翌2013年、5000万円出資してバンコクの日本人街に店舗をオープン。タイの現地のパートナーとして、G氏からタイ在住の日本人H氏と、タイ人のI氏を紹介された。タイ現地では両名が店の内装工事や仕入れ、法務、会計など店の管理をすべて行うという事だった。看板には、G氏から「店名の使用許可も得ている」と言われた日本国内の有名チェーン店の名前を記した。

ところが、実際に出来上がった店舗を見に行くと、多くの費用をかけたはずの内装が驚くほど安っぽい。出される料理もひどいもので、その割に値段も高額だったという。

さらに、店舗の場所にも問題があった。バンコクの日本人街だと聞いていたが、実際には、日本人が来るとされるエリアからはずいぶんと離れており、車なしでは来店は不可能。その店舗は郊外なのに、駐車場すらなかったからだ。

その物件を、AさんはI氏から借りる形を取っていたのだが、実はI氏が転貸(てんたい)をしていたもので、家賃ももとの価格より相当に高くなっていた。