なぜ、ネット上で提供されているサービスの多くは無料なのにビジネスとして成立するのだろう?
広告収入はその答えの一つだが、すべてではない。現在、より注目を集めているのは「フリーミアム」であろう。これは無料版(フリー)と有料版(プレミアム)のサービスを組み合わせたビジネスモデルを指している。
無料の商品やサービスで消費者を引きつける手法は従来から存在する。それらとフリーミアムの違いは、無料で有料に近いサービスを提供する点にある。無料サービスの提供で大量の利用者を獲得し、そのほんの少しの割合を有料サービスに誘導できれば、母数が大きいので十分な収益を見込めるのだ。
例えばインターネット経済圏について論じた書籍『フリー』(クリス・アンダーソン)の原書は電子版が無料公開され、日本語版も昨年11月下旬の発売に先行して1万人限定で無料公開された。
タダでコンテンツを公開するという常識破りの結果は、1月上旬時点で5刷8万部というヒットをもたらした。担当編集者であるNHK出版の松島倫明氏は「無料公開の手応えや読者の反応から発売時点で3刷が決定していた」と語る。マーケティング手法として、フリーミアムは有効に機能した。
今、コンテンツは不正コピーに悩まされ、著作権を強化せよという声が大きくなっている。だが、デジタル時代にコンテンツを活かす道は、意外にもそれとは逆の方向にある可能性を『フリー』は身をもって体現したと言えよう。
(ライヴ・アート=図版作成)