1909年10月26日、ハルビン駅に到着した伊藤博文(左から二番目の挨拶する人物)。この30秒後に銃で撃たれた。(写真=近現代PL/アフロ)

「不法行為への慰謝料は協定外」という論理

11月29日、韓国の大法院(最高裁判所)は日本の三菱重工業に対し、第二次世界大戦中の元徴用工や女子勤労挺身隊員に賠償金を支払うよう命じました。去る10月30日に、やはり大法院が新日鉄住金への訴訟に対して下した判決を踏襲するものです。

2つの判決は、いずれも奇怪な論理構造をとっています。10月30日の判決文(*1)は、1965年の日韓基本条約に付随する形で締結された「日韓請求権並びに経済協力協定」の合意内容を認めています。「日本が韓国に経済支援を行うことで、この協定の署名の日までの両国及び国民の間での請求権は完全かつ最終的に解決される」という合意内容を、まず認めているのです。

その上で、協定合意の法的な取り決めをすり抜けるため、判決文では、日本の不法な植民地支配下でなされた強制動員への「慰謝料」として、請求権を認めるとされています。未払賃金や補償金などの民事的な請求は1965年の請求権協定により、日本に求めることができません。そのため、精神的な「慰謝料」という概念を新たに持ち出して、通常の民事的な請求と一線を画するとしたのです。

韓国大法院によると、1965年の請求権協定が締結された際、日本政府は過去の不法な植民地支配の非を認めなかったので、請求権協定はその不法性に対する賠償についてカバーしておらず、その限りにおいて、不法性に対する賠償権は請求権協定によっても、未だ有効であると結論づけているのです。そして、日本の不法行為に起因する賠償権を具現化するために、原告に精神的な「慰謝料」を払えという判決を下したのです。とんでもない屁理屈、詭弁です。

本稿執筆時点で11月29日の判決全文はまだ入手できていませんが、確定判決の対象となった2013年7月の釜山高等法院の判決文では、やはり「植民支配と直結した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定の適用対象に含まれていたと解することは困難である」としています(*2)。基本的に、2つの判決は同じ論理の上に成り立っているといえるでしょう。