「サイバーかリアルか」ではなく「サイバーもリアルも」

IoT時代とは機械(モノ)がインターネットにつながり、情報を加工し、付加価値の高いサービスを、機械を使って提供する時代であることはすでに述べた。強いサイバー企業と強いリアル企業が組んでこそ競争力は増す時代なのだ。IoT時代に生き残るには、「サイバーかリアルか」ではなく「サイバーもリアルも」強くなければならない。

日本で時価総額がトップのトヨタと2位のソフトバンクが組んで、IoTの中心分野であるモビリティサービスに取り組む意味は大きいと言える。サイバー企業の代表格であるグーグルが手掛ける「ウェイモ」や中国の「バイドゥ(百度)」などがモビリティサービス分野に乗り出している。そうした世界のサイバー企業に対抗するには、日本が得意なリアルな世界の強みを生かして戦う方がよい。

ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長。(撮影=安井孝之)

とはいえ大きい者同士、強い者同士が組めば強くなるかというと必ずしもそうではない。豊田社長と孫社長の会見で少し気になった点があった。

地上を動く機械であれば、タイヤもボルトもなくならない

孫社長は未来のクルマについてこう語った

「クルマは半導体の塊になります。ねじやボルト、ナットはなくなる」

もちろんデジタル部品の比率は高まり、機械部品の比率は低くなるだろう。だがクルマが地上を動く機械である限り、半導体だけで動かすことはできない。100年後の姿は私にも分からないが、豊田社長や孫社長が生きているうちに、タイヤもボルトもナットもなくなりはしないだろうと思うのだ。

豊田社長にも孫社長への遠慮がまだあるのだろうか。孫社長の発言に「半導体の塊になっても、ねじやボルトはなくなりませんがね」と突っ込みを入れてほしかった。

孫社長が未来像をあえて分かりやすくするために「半導体の塊になる」と言ったにすぎないかもしれない。未来を制する者は「サイバーもリアルも」強い企業群である。どちらかが主でどちらかが従になるのではなく、双方が主役である関係を維持することが強い仲間づくりには必要なのではなかろうか。

両社がそれぞれの強みをリスペクトする関係をずっと維持できるかどうか。力関係がどちらかに傾くようでは2社の提携の先行きは期待外れになりかねない。

安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。
(写真=時事通信フォト)
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