トヨタ首脳は長野の寺で2日間も「祈願」をする
聖光寺の夏季大祭は毎年、7月17日の夕刻から翌18日の昼ごろまでさまざまな行事が執り行われる。そこにトヨタ役員やトヨタ系企業社長、トヨタの販売会社社長らが2日間勢ぞろいする。今年はAIや自動運転技術を研究するトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)のトップ、ギル・プラット氏も2年ぶりに参加した。
聖光寺は1970年に、トヨタと販売会社が交通安全祈願のために設立した寺。トヨタ自動車販売(その後トヨタ自動車工業と合併し、トヨタ自動車に)の社長だった神谷正太郎氏の発案だった。
そのころは「交通戦争」と言われた時代で1970年の交通事故の死者は1万6765人と過去最高だった。道路事情も車の安全技術も十分発達しておらず、交通事故死の減少は神仏頼みだったのだろう。
「奇跡のような出来事」なぜ交通事故死は激減したか
40年以上、住職を務める松久保秀胤さんの法話は毎年長く、難解であるが、今年は30分と短かった。強調したのは90歳になった松久保さんにとっても自戒の念といえる言葉だった。永平寺貫首だった熊沢泰禅の墨蹟にある言葉だった。
「当処を離れず、常に堪然に」(この場所を離れず、常にひたすらにやり抜く)
いわば目の前に起きている現実、現場から離れず、やるべきことをひたすらやり続ける、ということである。この言葉を、松久保さんはトヨタ役員らに語り掛けた。
2017年の交通事故死は3694人まで減った。聖光寺が設立された1970年の死者数の5分の1に迫る数字だ。松久保さんは「奇跡のような出来事」と言い、なぜ死者の減少が実現したのかを説いた。
「交通安全祈願を祈祷したからできたとは申さない。ひたすらに物事を行い、結果において不思議と奇跡のようなことが起きることがある。交通事故死が減ったのもそうである。これはトヨタの創始以来の精神と相通じるものがある。今後も続けていただきたい」