トヨタ生産方式は「利益のため」だけの仕組みではない

トヨタは「100年に一度の大変革」の時代に、「TPS(トヨタ生産方式)」と「原価低減」という2つのキーワードで立ち向かおうとしている。TPSは「ジャスト・イン・タイム」と「自働化(ニンベンのある自働化)」とが2本柱である。どれも創業者の豊田喜一郎が敗戦直後に生産現場にいた大野耐一らに「3年でアメリカに追いつけ」と厳命し、そこから生まれた知恵である。いわばトヨタの原点である。

生産現場ではTPSも原価低減も徹底されている感があるが、研究開発部門や事務系職場では徹底不足だったようだ。旗振り役の豊田社長は全社的にTPSと原価低減を徹底させることで、組織全体のイノベーションを起こす基礎体力を高め、「大変革」の時代を生き抜こうとしているのだろう。

TPSは誤解されやすい。単に機械や人間を無駄なく効率的に使って利益を上げる仕組みだと思われている節がある。大野耐一は『トヨタ生産方式』(1978年、ダイヤモンド社)の中で、「野球にたとえるなら『ジャスト・イン・タイム』とはチーム・プレーすなわち、連携プレーの妙を発揮させることであり、『自働化』とは選手一人一人の技を高めることであると考える」と書いている。個人技とチーム・プレーの相乗効果がTPSの基本だとすると、確かな個人技あってのチームを目指すべきなのだ。

聖光寺の松久保住職(撮影=安井孝之)

「当処を離れず、常に堪然に」

80年ほど前のトヨタは自動車業界のスタートアップ企業だった。そんな小さな会社が個人技のない烏合の衆では競争には勝てない。個人技がある者たちがチームワークを築かねば勝てるはずはなかった。

だが大きな組織になるにつれ、個人が組織に埋没してしまい、イノベーションを起こせなくなってしまう恐れがある。そんな危機感があるからこそ、「100年に一度の大変革」に向けて、豊田社長は原点回帰を訴え始めたのではないだろうか。

トヨタの原点、あるいは「当処」とはTPSである。聖光寺の住職がこの夏季大祭で強調した「当処を離れず、常に堪然に」はトヨタの今の課題を言い当てている。

だからこそ夏季大祭への参列は来年もやめられないに違いない。

安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。
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