トヨタに常に先回りしていたのがソフトバンクだった

これまでの自動車メーカーはクルマをつくり、客に売るだけで良かった。だが自動運転車が登場し、宅配便や地方での移動手段など新しいモビリティサービスに活用されるようになると、クルマを売るだけでなく、クルマを使って社会に役立つように活用するためのプラットフォームといえる自動運転車の運行システムづくりにも関わらなくてはならない。

それはトヨタが目指すさまざまな移動サービスを手掛ける「モビリティ・カンパニー」になるには必須条件である。

トヨタはすでに世界各地でライドシェアビジネスを展開しているウーバーテクノロジー(米国)、グラブ(シンガポール)、ディディ(中国)、ゲットアラウンド(米国)などと提携し、モビリティサービスに取り組む準備を進めてきた。

トヨタ自動車の豊田章男社長。(撮影=安井孝之)

ところが世界のライドシェア会社に接近したトヨタに常に先回りしていたのがソフトバンクだった。豊田社長は「(提携の)ドアを開けたら、いつも孫さんがそこに座っていた」と言う。ソフトバンクはそうした会社の筆頭株主にすでになっていたのだ。

孫社長は今後のIoT社会の主導権を握るには「モビリティ」が鍵になると見ていた。孫社長の真骨頂は時代の先を読み、新技術やベンチャー企業に投資してきたことだが、モビリティサービスの分野でも目利き力が発揮された。

豊田社長は6日に東京・お台場で開かれた日本自動車工業会主催のトークショーに飛び入りで登場した孫社長を「4、5周先を見る目利きの力はすごい人」と評した。

「組むなら世界一の会社が良かった」

トヨタにしてみれば、提携先の筆頭株主のソフトバンクと手を組み、一緒に世界に打って出るという選択は必然だったのではないか。もしもソフトバンクを敵に回してしまえば、提携先のライドシェア会社との事業は前に進まない。ならば大株主のソフトバンクとあえて手を組むという選択は極めて現実的なものだったに違いない。

その根底には「社風や業界が違う」などと言って、手を組むのを躊躇していては「100年に一度の大変革期」を乗り切ることはできないという危機感がトヨタにはあったのだろう。

一方、ソフトバンクにも必然があった。IoT時代を制するにはサイバー技術に長けているだけでは十分ではない。よりよいモビリティサービスを提供するにはよりよいクルマをたくさん生産し、販売しなければならない。その方がサービスに活用できるデータをたくさん集めることができ、競争力は増す。リアルな世界で競争力のある会社と組む必要があった。6日のトークショーで孫社長は「組むなら世界一の会社が良かった」と打ち明けた。

新会社「モネテクノロジーズ」の資本金は20億円。ソフトバンクが50.25%、トヨタが49.75%を出資し、2018年度中に事業を始める。社長にはソフトバンクの宮川潤一副社長が就く。