問題は「女性医師の勤務態勢の劣悪さ」だけではない
東京医大では、文科官僚の子弟を「裏口入学」させたことに加え、一般入試で男性を優遇するため、女性受験者の一律減点を行っていたことが明らかになった。
この問題についてメディアでは「女性医師が働きやすい環境を整備することが重要」と繰り返し報じられている。しかし、私はそんなことをしても問題は解決しないと考えている。問題は「勤務態勢の劣悪さ」だけではないからだ。
なぜ東京医大は男性受験者を優遇していたのか。それは、東京医大の場合、医師国家試験に合格した卒業生の大半が、東京医大病院をはじめとする系列病院で働くことになるからだ。つまり、大学入試が「東京医大グループ」への就職試験を兼ねている。
このような形で運用されている大学の学部は医学部だけだ。医学部教授は学生を指導する教員であると同時に、病院や医局の経営者でもある。病院経営の観点から考えれば、安くてよく働く若手医師を確保したい。
若手医師は「1年更新で月給20万円」の不安定な立場
東京医大に限らず、若手医師の待遇は劣悪だ。東京医大の場合、後期研修医(卒後3年から8年程度の若手医師)の給料は月額20万円だ。夜勤手当や超過勤務手当てなどはつくが、この給料で、新宿近辺でマンションを借りて生活しようと思えば、親から仕送りをもらうか、夜間や休日は当直バイトに精を出すしかない。
しかも、この契約は3年間で満了し、その間も1年更新だ。常勤ではなく、女性医師で妊娠がわかったような場合、雇用契約を継続するかどうかは、東京医大に委ねられる。
この結果、東京医大の人件費率は43%に抑え込まれている。安くてよく働く若手医師を抱えているので、東京医大の利益率は5.8%と高い水準を維持できている。
大学病院経営の視点から考えれば、女性より男性が安上がりだ。産休をとらず、一生働き続けるからだ。入学試験の成績が多少悪かろうが、男性を採用したいという考えも理解はできる。知人の東京医大関係者は「放っておいても黒字なので、教授たちは権力闘争ばかりやっていられる」という。
実は、このような主張もおかしい。彼らの主張が正しいのは、東京医大に限定した場合だけだ。