女性医師に限らず、女性は出産・子育ての時期に一時的に仕事を離れることが多い。この減少を「M字カーブ」と呼ぶ。少し古いが2006年の長谷川敏彦・日本医科大学教授の研究をご紹介しよう。この研究によれば、医師の就業率は男女とも20代は93%だが、30代半ばで男性は90%、女性76%と差がつく。
メディアでは、こうした事実が強調されている。ただし、これは今回の不正入試の本当の原因ではない。東京医大が男性を優遇するのは、女性は大学側のコントロールがしづらく、東京医大病院を辞めてしまうリスクが高いと考えているからだろう。
多くの医学生は、大学教授は魅力的なポジションと洗脳される
例えば、東京医大の内科系診療科の場合、循環器内科など8つの内科系診療グループのスタッフにしめる女性の割合は、教授・准教授で5%、助教以上のスタッフで22%、後期研修医で37%だった。女性は年齢を重ねるに従い、東京医大病院で働かなくなっていることがわかる。
医師の平均的なキャリアパスは24歳で医学部を卒業し、2年間の初期研修を終え、その後、3~5年間の後期研修を受ける。その時点で30代前半になる。この時期から、大学病院を離れ、他の医療機関で働くようになっている。男性と比較して、女性のほうが大学病院を辞める時期が早いようだ。なぜだろうか。私は、その閉鎖的な体質に問題があると考えている。
大学病院は教授を目指した出世競争の場だ。主任教授になれば、医局員の人事を差配し、製薬企業や患者から多くのカネを受け取る。ワセダクロニクルとNPO法人医療ガバナンス研究所の共同調査の結果、東京医大のある内科教授は2016年度に115回も製薬企業が主催する講演会の講師などを務め、1646万円の謝金を受け取っていたことがわかっている。これでまともな診療や教育、研究ができるはずがない。
多くの医学生は、大学教授は魅力的なポジションと洗脳される。大学で出世するためには、安月給で、土日返上で働き、論文を書かねばならない。まさに滅私奉公の世界だ。
私大医学部の経営者は、この出世競争を利用してきた。知人の私立医科大の理事長は「教授でなくても、講師や助教などの大学の肩書きをつければ、人件費を3割は抑制できる」という。