妻への「総支払い」は52年間で計9360万円也

淳二さんの毎月の負担は最初の10年間は、(1)住宅ローン、(2)生活費、(3)養育費の3点セットで毎月26万円です。10年後、長女が20歳のときに学校を卒業して就職・自立すると(1)と(2)で毎月20万円です。そして20年後、ローン返済が完了すれば、(1)のみで月10万円となります。そのとき、妻はまだ58歳。人生100年時代と言われる中、この月10万円は淳二さんの定年退職後も続くことは明らかです。

写真はイメージです(写真=iStock.com/high-number)

計算してみましょう。妻への支払いは最初の10年間(月26万円×12カ月×10年)で計3120万円、最初の20年間(3120万円+月20万円×12カ月×10年)で計5520万円です。21年目からは毎月10万円の支払いになりますが、妻の寿命を90歳としたとき、5520万円+月10万円×12カ月×32年で、総計9360万円ということになります。

淳二さんがもし年収1億円を超える「高給取り」なら、何の問題もありません。しかし、淳二さんは年収600万円(手取り月収35万円)の平均的なサラリーマンです。

「冗談でしょ。そんな人がいるわけがない」

▼年収600万円の夫は払うことができるのか?

そう思う読者も多いでしょう。何しろ、淳二さんらの手取り月収から、妻への支払額を引くと、最初の10年間はたった9万円しか残りませんから。でも、これは笑い話ではありません。実際にあった話であり、本当にこの金額を約束した人が存在するのです。

確かに淳二さんは離婚することに成功しました。長年の苦痛からようやく解放されました。しかし、その代償はあまりにも重く、多く、長いものでした。

離婚と引きかえに淳二さんは最初の10年だけで3100万円超の支払いを約束したのです。しかし現実的に考えてみると、自分の収入だけでは、妻に支払う約束をした住宅ローン(月10万円)を返済することは難しい、とわかります。

そこで、数年前に定年退職した父親の退職金1500万円、さらに祖父から父親が相続した遺産900万円を充てて、離婚時に一括完済できないか、と頭を下げたそうです。しかし、退職金をあてにされた父親はあからさまに嫌な顔をしたそうです。当然の話です。親戚からも後ろ指をさされるようになりました。

結局、住宅ローン2400万円(20年間の返済分)は親から借りることができました。このため当初10年間の支払い額は月16万円に減りました。そのことで淳二さんの手元には月19万円が残ることになり、何とか生活のめどが立ちました。ただし、親から借りた2400万円は、いずれは返済しなければなりません。