※当記事はqBiz 西日本新聞経済電子版の提供記事です
悪の秘密結社、組織はホワイト
「日本の法人で、『悪』の字を文字通り『悪い』という意味で名前に入れているのは、うちだけなんです」
先の国税庁のサイトで検索すると、「悪」でヒットする法人は6件。地名のほかは「悪臭対策」の団体など。確かに「悪い」のはこの秘密結社だけだ。
2016年3月に福岡市東区の自宅で創業した笹井さん。起業前は時計店で接客業に携わり、次に広告代理店で営業次長まで務めた。高校時代、ヒーローショーのアルバイトでステージに立ったときの感動が大人になっても消えず、胸の内に秘め続けたヒーローへの憧れが、普通のサラリーマンを最終的に「悪の道」へといざなった。
起業から2年。社員3人のヒーローショー専門の会社だが、顧問弁護士とも税理士とも、社会保険労務士とも、すべて契約している。小さな会社なのに意外? いや違う。
「悪の、と名乗っている会社が本当に悪かったら絶対ダメですよね」
そう、悪の秘密結社は「ホワイト」なのだ。
5月下旬の月曜日の朝、悪の秘密結社を率いる「ヤバイ仮面」は、福岡市・天神のオフィスビルの会議室前で出番を静かに待っていた。舞台は、ガンツ不動産(同市)が新たに始める聴覚障害者向けの手話通訳サービスの発表記者会見だ。
勢いよく会場に飛び込んだヤバイ仮面は悪徳不動産を演じ、そして最後はきっちり撃退された。過酷な全身スーツだが、「気温よりも、湿度がつらい。高いとあっという間にやられます」と笹井さんは汗をぬぐう。
そんな体力勝負の場面も多いが、社名とは裏腹に「ブラック」ではないという悪の秘密結社。では、具体的に給与や労務管理はどうやっているのだろうか。
ヒーローショーや演劇、芸能関係の業界は、一般的に収入が不安定とされている。舞台への出演ごとにギャラが支払われ、その額にもケースごとに大きな差があるからだ。
悪の秘密結社は、固定給だ。正社員に登用の場合は、手取りで18万円から始まる。下準備も稽古も道具製作も当然と言えば当然だが、すべて業務に位置付けている。職業柄、土日の出勤が多いが、平日に代休を確保して週休2日を徹底している。
BtoB(企業間取引)の現場で鍛えられたという笹井さん。ヒーローショーの会社としては珍しく、社員には名刺の渡し方を教え、「3コール以内に取るのは当たり前」と電話の取り方の研修もやった。笹井さんは言う。「ヒーローショーをビジネスとして成立させ、雇用を生むのも大きな目標。会社として、演者を社会に通じる優秀な人材に育成していきたい」