「生物×IT」は21世紀を象徴する産業になると直感

【田原】車のエンジニアより、生物のエンジニアに可能性を感じたわけだ。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【島原】はい。DNAには何十億という塩基対が並び、ゲノムからタンパク質ができて、タンパク質が組織をつくります。生物をつくるには、まずこの複雑な情報ネットワークを理解する必要があるので。

【田原】ところが、学部卒業後は大学院で遺伝子の研究を続けるのではなく、画像解析の研究室に入った。どうしてですか。

【島原】遺伝子の研究をやって思ったのは、実用化はまだ先だということ。遺伝子はタンパク質などをつくる設計図ですが、遺伝子が理解できても、タンパク質がどのような組織をつくって、その組織がどのような機能を果たすのかといったところはまったく理解が進んでいませんでした。もう少し実用に近いところからキャリアを始めようと考えたときに思い浮かんだのが画像解析でした。

【田原】でも、画像解析はITの分野でしょう? 畑違いじゃないですか。

【島原】だからこそパイオニアになれると思いました。「生物×IT」は21世紀を象徴する産業になるはずですが、両方のスキルセットを持っている人がほとんどいません。ならば自分がその道を切り開こうと。

【田原】世界でいうとパイオニアはどこですか。AIの研究はアメリカのほうが進んでいるじゃないですか。

【島原】おっしゃる通り、AIはアメリカが進んでいます。ただ、医療画像解析に限ると、日本にアドバンテージがある。じつはCTやMRIの導入率が世界一高いのは日本です。最近「脳ドック」を受ける人が増えてきましたが、脳ドックという言葉も日本生まれ。AIの開発には良質な画像データが欠かせませんが、日本には良質な画像データにアクセスしやすい環境があります。その点では非常に有利。医療画像解析の分野では、日本が世界のトップランナーになる可能性が十分にあります。