3年目には7億円の資金調達をして人を大量に採用

【田原】KLabを退職して自分の会社に専念したのは起業してから、どれくらい経ってからですか。

【島原】1年ちょっとです。副業として始めたら、思った以上にたくさんの依頼が来て3人だけでは対応しきれなくなってきました。新たに2人を採用することになり、もう腹をくくってやらなきゃいけないなと思って会社を辞めました。

【田原】ニーズが高かったんですね。どんな会社から依頼が来るのですか。

【島原】1年目はアカデミックなつながりで、国の研究機関からの依頼が多かったです。2年目は民間企業からの案件が増加。大手は設立されたばかりの会社に発注しませんが、1年目の実績を見て声をかけてくれたようです。分野はいろいろで、医療以外にも、海底や宇宙の画像の解析システムを開発したりもしました。会社設立2年目で、40件の案件があったでしょうか。

【田原】それほど需要があるなら、ほかにも画像解析する会社ができてもよさそうなものだけど。

【島原】もちろんほかにも画像解析する会社はあります。ただ、圧倒的に数が足りなくてニーズに追いついていない状況です。先ほどもいいましたが、生物学の知識があり、なおかつソフトウエアをつくれる人材がほとんどいません。私たちがいた東大の研究室も10人前後。他大学を見回しても、生物実験ができて画像解析までしっかりできるという研究室は数%以下です。

【田原】大手製薬会社にもいない?

【島原】ITに精通した方はいても、画像解析となるとほぼいないです。

【田原】どうして両方やる人がそんなに少ないんだろう。

【島原】生物の分野、つまり医学、農学、薬学といった学問は暗記が中心で、授業で数学があまり必要ないことが大きいのではないでしょうか。受験の段階でもそうですし、大学でもそう。数学が好きな人は、生物じゃなくて物理や機械の分野に進みます。じつは私たちはこの2年間、約100大学を回って、ライフサイエンスの研究者に向けて画像解析の講義をしています。その中でアンケートを取ったところ、9割の人は研究で画像処理をしていました。しかし、実際に授業で画像処理を学んだことがある人は1%しかいなかった。両方ができる人材を急いで教育しなければいけないのに、教育側も追いついていない。この分野の課題です。

【田原】話を戻しましょう。2年目で企業からの依頼が増えたところまで聞きました。3年目はどうでした?

【島原】3年目に入ると、AIブームが到来。毎週のように医師から「AIで何とかなりませんか」と問い合わせが来て驚きました。医療はものすごくコンサバティブな業界だと思っていたのですが、医師の方々が自ら動こうとしている。「この声に応えないと社会のためにならない」と使命感を新たにしました。3年目には7億円の資金調達をして人を大量に採用しましたが、経営者としてリスクを背負うことにしたのも、覚悟のあらわれです。