想像してみてください。世界規模で何億ドルも稼がなければならない家族向け映画のビッグプロジェクトが立ち上がり、あなたがその会議に出席しているとします。そこで配られた企画書に「テーマは死」「登場人物の多くはガイコツ」と書かれていたら、思わず異議を唱えてしまわないでしょうか?
そのような定石外しを最高の形で作品へと結晶化し、しかも興行的な成功までしっかり達成してしまうのがピクサーの、ハリウッドの底力です。ハリウッドといえば「1セントたりとも損をしたくない冷徹なビジネスマンの集団」をイメージしてしまいますが、実は「誰もやったことのないことを俺たちがやろう」というチャレンジ精神やフロンティア精神は、まだまだ健在なのでしょう。
「原作なし、キャラは未知」の完全新作のすごさ
もうひとつ、特筆すべき点があります。『リメンバー・ミー』は、『怪盗グルー』シリーズのミニオンのように既にキャラクターが世間に認知されているわけでも、『トイ・ストーリー』のように人気シリーズの続編というわけでもありません。もちろん原作もなし。この映画1本のためにキャラクターから世界観からストーリーまで、すべてが完全オリジナルの作品なのです。
それがどうしたという人は、下表を見てください、これは2017年の日本映画の興行収入上位10本ですが、原作をもたず、既存のIPに頼らず、続編でもない完全オリジナル作品は1本もありません。10本すべてが、「原作つき」「キャラクターが既存」「シリーズ続編」「リメイク」のいずれかに該当するのです。
1位 名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)(68.9億円)
2位 映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険(44.3億円)
3位 銀魂(38.4億円)
4位 劇場版ポケットモンスター キミにきめた!(35.5億円)
5位 君の膵臓をたべたい(35.2億円)
6位 メアリと魔女の花(32.9億円)
7位 映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!(32.6億円)
8位 劇場版ソードアート・オンライン ―オーディナル・スケール―(25.2億円)
9位 忍びの国(25.1億円)
10位 22年目の告白 ―私が殺人犯です―(24.1億円)
※一般社団法人 映画製作者連盟の発表データより
もちろん、原作つきや続編だからといって作品の価値が下がるわけではありません。原作や前作に一定数のファンがついていれば集客が見込めるので「コケる」リスクは下がります。その上で作品がおもしろければ、何も問題はないからです。
この傾向は日本だけに限りません。「アベンジャーズ」などに代表されるアメコミ映画は、既にアメリカ国内で一定の知名度があるヒーローコミックを原作とし、徹底したシリーズ化によってビジネスを成立させていますし、ハリウッドは世界中の著作者から映画化権やリメイク権を買い集めています。日本の大ヒットアニメ『君の名は。』がハリウッドで実写映画化されることも、昨年9月に報じられました。