先週末の観客動員数1位は『グレイテスト・ショーマン』でした。社会から不当に差別される身体的特徴を、「ユニークな個性」として歌い上げるミュージカル映画です。その内容には「ご都合主義」「偽善」との批判もあり、公開前の評論家受けはイマイチでした。しかし公開されると観客の共感を呼び、異例のヒットになっています。ライターの稲田豊史さんは「製作者たちの『覚悟』が伝わってきた」と考察します――。
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『グレイテスト・ショーマン』

■製作国:アメリカ/配給:20世紀フォックス映画/公開:2018年2月16日
■2018年2月17日~2月18日の観客動員数:第1位(興行通信社調べ)

金儲けのために“奇形者”を集めて見世物小屋を作る話

「X-MEN」シリーズのウルヴァリン役などで知られるヒュー・ジャックマン主演の『グレイテスト・ショーマン』が、初登場第1位となりました。19世紀のアメリカで「サーカス」という興行形態を確立した興行師P.T.バーナムの半生を描いたミュージカルです。土日2日間の興収は3億9100万円、金土日の3日間では興収5億800万円という好成績で、最終興収は20億円以上に達する見込みです。

好調スタートの要因としては、昨年ミュージカル映画としては異例の大ヒットとなった『ラ・ラ・ランド』(興収43.9億円)の音楽チームが楽曲を制作していること、『レ・ミゼラブル』(2012年)などで女性の人気が高いヒュー・ジャックマン主演であることに加え、「サクセスストーリー」「多幸感」「家族愛」といった、年齢や性別を問わない打ち出しが功を奏したものと思われます。

ただ、映画を観てみると、バーナムが新しいビジネスを考えるくだりに達したところで「えっ」と驚く人もいるでしょう。本作は「起業家が金儲けのために“奇形者”を集めて見世物小屋を作り、ビジネスを軌道に乗せてゆく話」だからです。

「見られても怖くない。謝らない。これが私だから」

劇中に登場する“奇形者”は、小人症の男性やホルモン異常とおぼしき高身長の男性、ヒゲの生えた女性など。彼らは劇中の字幕を借りて言えば「ユニークな人」、もしくはやや蔑称的に「フリークス」と呼ばれます。

筆者はバーナムが劇団員をスカウトするくだりで、こう思いました。「“奇形者”を“見世物”にするストーリーで、観客の共感を得られるのか」と。

しかし、その心配は杞憂に終わりました。周囲からの奇異の目に苦しめられてきた彼らの身体的特徴は、劇中でポジティブなイメージに転化されるからです。それは主題歌「THIS IS ME」の歌詞にも集約されていました。「私たちの輝ける場所があるはず」「見られても怖くない。謝らない。これが私だから」。彼らがステージでスポットライトと喝采を浴びるシーンでは、多くの観客がカタルシスを感じたでしょう。

“地雷”だらけの題材をエンタメに昇華させた

ただ、「奇形者を見世物にして金儲けしたい」というバーナムの反倫理的な動機は、いくらファンタジーであっても、サクセスストーリーという金科玉条に支えられているとしても、決して免罪されるわけではないのでは? という引っかかりがなかったわけではありません。そういった動機の不純に目をつぶり、家族愛という力技で物語を能天気なハッピーエンドに収束させるのは、あまりにもご都合主義ではないか? と思ったのも事実です。

正直に言えば、社会から不当に差別されてきた身体的特徴に、「唯一無二の個性」や「みんな違って、みんないい」的な口当たりのいいポジティブイメージを付与していく展開には、わずかな偽善臭を感じました。