「中華民族の偉大なる復興」の真意は何か

実は習近平氏は2012年11月に政権の座についた当初から、すでにこの問題を強く意識して、自らの業績づくりのための「政策理念」を掲げてきた。それはすなわち、彼自身が「中国の夢」と名づけた「中華民族の偉大なる復興」というものである。

石平『なぜ中国は民主化したくてもできないのか』(KADOKAWA)

習政権の一枚看板となったこの政策理念の訴えるところは、中華民族が近代以来、西洋列強と大日本帝国の侵略と植民地化政策の推進によって失った領土と尊厳とアジアの覇主としての地位を取り戻して、もう一度アジア地域を支配し、アメリカも凌駕するような世界の大国としての栄光なる地位を回復させることである。

習政権が誕生してからこの間、中国はまさにこの習近平理念に基づいて南シナ海の軍事拠点化戦略を進めたり、アジア太平洋地域の経済的覇権を握るための一帯一路戦略を推進したりして、軍事と経済の両面においてアジアの支配を狙っている。

そしていま、昨年の党大会と今年の全人代において、絶対的独裁体制を固めた「新しい皇帝」である習近平は、二期目から「不退転の決意」をもって南シナ海と東シナ海に対する軍事的支配と、「一帯一路」の展開による世界への経済支配を両輪とする世界制覇戦略を進めていくだろう。そうすることで初めて、彼は毛沢東や鄧小平と肩を並べる「不朽の業績」をつくり上げることができ、「本物の中華皇帝」としての地位を不動のものにできるのだ。

もちろん「習近平帝国」によるアジア支配は、日本をはじめとする周辺国にとっては災難以外の何物でもない。「新しい皇帝」習近平にどう対処するのかは、われわれの未来に関わる大問題となっていくのである。

石平(せきへい)
評論家。1962年中国四川省成都市生まれ。80年北京大学哲学部入学。84年同大学を卒業後、四川大学講師を経て、88年に来日。95年神戸大学大学院文化学研究科博士課程を修了し、民間研究機関に勤務。2002年『なぜ中国人は日本人を憎むのか』(PHP研究所)の刊行以来、日中・中国問題を中心とした評論活動に入る。07年に日本国籍を取得。14年『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞を受賞。近著に、『なぜ日本だけが中国の呪縛から逃れられたのか』(PHP新書)などがある。
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