気に入った本ほど、何度も読み返す
本はよく読むほうですが、乱読ではなく、どちらかといえば好きな本を何回も読み直すタイプ。時代が変われば自分の置かれた環境や経験の量も変わるので、同じ文章でもまた違った受け止め方ができます。そのため気に入った本は1年、2年おきに繰り返して読んでいます。
最近読み返して、改めて著者の慧眼に気づかされたのは、1981年発行の『ゼロ・サム社会』(レスター・C・サロー著)です。じつはMITに留学していた84年に、サロー教授の経済問題に関する講義を受講したことがあります。深い洞察をベースに語る彼の講義は平素簡潔、それでいて示唆と先見性に富んでいました。
サロー教授は本書で、自由経済主義の社会がゼロ・サムの危険性を本質的に孕んでいると指摘しました。誰かが豊かになれば、その一方で誰かが大きな経済的損失を負担しなければならない。そんなゼロ・サム社会では、すべての人が満足することはなく、「総論賛成、各論反対」の状況が発生しやすい。
本書は当時の米国が抱える問題を例にそのことを解説していましたが、いま読み返してみると、日本の現状も同じです。たとえば道路問題や年金問題は、あちらを立てればこちらが立たずで施策が行き詰まっている。サロー教授はゼロ・サム社会で問題を解決するためには広くコンセンサスを取る努力と強い決断力が必要だと説いています。現在の日本の混沌とした政治経済の状況を見るにつけ、彼が説くコンセンサスと決断の重要性が、ますます重みを増してきたのを実感します。